委任及び任意後見契約活用の留意点2・活用に注意すべき事例

委任及び任意後見契約(移行型任意後見)は高齢者にとって有効なツールの1つです。しかし、作成時期を誤ると本来の機能を発揮しない場合があります。

最近発生した事例をご紹介します。

1.作成までの道のり

ご高齢で単身、お子様もいらっしゃらないAさんは呼吸器の病気で病院に搬送されました。現在は呼吸器を装着され、胃ろうも行っているため外出も会話も出来ません。筆圧も弱くなり、文字を書くのも不自由となってしまいました。ただ、意識はありますので首を動かしたり、対話ボードを使ってコミュニケーションを取っています。

会計など病院外のことは妹のBさんがお世話をしていましたが、入院が長くなるにつれ入院費を立て替えて行くのが難しくなってきました。Aさん名義の預金を使おうにも、Aさんは会話も外出も筆記も出来ないため、引き出すことが出来ません。

Bさんが公証人に相談すると委任及び任意後見契約(移行型任意後見)を紹介してくれました。

「『委任及び任意後見契約』があれば意思能力が確認出来る間は代理権が証明できるので、金融機関の窓口で委任及び任意後見契約公正証書を提示すれば手続きが出来る。」

この様に説明されたBさんは、Aさんに説明して委任及び任意後見契約の作成手続きを行いました。委任及び任意後見契約作成には相談から始めて完成まで3か月程かかりました。

公正証書が出来上がると、Bさんは早速銀行に持参しました。

2.銀行の対応

委任及び任意後見契約を受けた銀行はこの様に考えます。

「Aさんは意思能力がある。従って受任者Bさんは委任者であるAさんから代理権を受任している。ならば代理人手続きに則って対応すればよい」

問題はこの代理人手続きです。これは各金融機関で対応がまちまちです。

本人に専用の委任状を書いて頂く銀行もあれば、電話で意思確認をする銀行もあります。

Aさんの場合、筆記は困難で電話を利用することも出来ません。

本件の場合は幸い銀行の職員が直接Aさんの病室を訪問して意思確認を行ってくれることになりました。

3.現実の手続き

ところがAさんの病室を訪れると大きな問題が発生しました。Aさんとのコミュニケーションが出来ないのです。

「銀行の預金を解約しますか?○○へ振り込みますか?手続きはBさんにやってもらっていいですか?」

幾ら呼び掛けてもAさんは職員を見つめるだけで何の反応も示しません。

Aさんは公証人が病室に訪問してから、公正証書を手にするまでの1か月程度の間に認知症が進行して意思確認がスムーズに出来ない状態になってしまったのです。

Bさんも必死に呼びかけますが、十分な反応はありません。

結局、銀行の職員に半日同席してもらい、様態の良いときを見計らって意思確認を行って貰い手続きを行う事が出来ました。

4.法律家の主張をうのみにしてしまう危険性

Aさんの場合は幸い銀行の対応の許容範囲が広かったため手続きを行うことが出来ました。

もし原則的な対応をされた場合、Aさんは意思能力がないものとみなされ、任意後見契約の発効を依頼され、預金の解約は後見監督人が就いてから、恐らくは2~3か月あとになってしまったことでしょう。後見監督人が就くと以降は後見監督人への手数料支払いも発生します。

経済的な負担はますます切迫したものとなっていた事でしょう。

本件の問題点は何だったのでしょうか?それは相談した相手が『法律の』専門家だったことです。

無論、法律に則った手続きは必要です。しかしご高齢で入院して、既に会話もできなくなっているAさんが委任及び任意後見契約を作っても、公正証書が完成したときには既に委任契約では対応出来なくなっている可能性は充分に予想できます。

いつ、どの様なタイミングなら「委任及び任意後見契約」が有効なのか、この点は『現場実務経験』の乏しい『法律の』専門家の盲点です。

確かに「委任及び任意後見契約」は有効な手段の1つではあります。しかし相談者の置かれている状況は百人百様です。相談者の状況を十分に踏まえてカードを切ることが必要なのです。

どうか「委任及び任意後見契約」をお考えの方には、先ずは『現場実務に精通した』行政書士等に、時期、状態を踏まえ、何が最善の方法であるか、をご相談頂くことをお勧めします。

委任及び任意後見契約活用の留意点・法律家の主張をうのみにしてしまう危険性

委任及び任意後見契約(移行型任意後見)は意思能力が認められる期間は委任契約として、認知症等が発症し意思能力が認められなくなってからは任意後見契約として利用できる制度です。

公証人や弁護士等の方による啓蒙も進み、昨今活用される方も増えてきましたが、他方その活用を啓蒙する公証人や弁護士の方々の中には必ずしもその実務に精通されているとは言えない方もいらっしゃる様です。

ここでは実際の現場における委任及び任意後見契約の位置付けを説明します。

先ず、皆様にご認識頂きたいのは、『委任及び任意後見契約があれば、意思能力が確認できる間は代理権が証明できるので、金融機関の窓口で委任及び任意後見契約公正証書を提示すれば手続きは出来る』と説明する公証人等の方は、法律論には精通しているが実務上の手続きは行ったことがない方が多い、という事です。

確かに委任及び任意後見契約により、委任者から受任者への代理権委任は証明できます。

しかし、委任及び任意後見契約の効果はそこまでなのです。

委任及び任意後見契約を受けた金融機関はこのように考えます。

「本人は意思能力がある。従って受任者は委任者から代理権を受任している。ならば当行の代理人手続きの手順に沿って対応すれば良い」

ここで法律家の方々が勘違いされるのは委任及び任意後見契約公正証書があれば、それだけで手続きが完了すると誤解されている点です。

銀行窓口で代理人手続きを取ったことがある方はお分かりになると思いますが、金融機関によっては委任状を持参しても金融機関独自の委任状を求められることもありますし、名義人本人に電話で意思確認を求められることもあります。昨今は、今後の代理人手続きに係る依頼書を求める金融機関もある様です。

すなわち代理人手続きの方法は各金融機関各々が決めており、統一されている訳ではないのです。

金融機関としては委任及び任意後見契約公正証書を持参しても、それは代理人が来店した、というだけの話で、あとは各々の金融機関の定める代理人手続きに乗せるだけの話です。

従って受任者は各金融機関の手続きに従って、委任者と共に別途個別の委任状を提出したり、金融機関が規定する依頼書を記入したり、金融機関からの委任者あて電話による意思確認を了承することが必要となるのです。

委任及び任意後見契約の委任契約は、契約締結時に委任者の意思能力があったこと、その委任者が代理人手続きを希望していたことを明示しているだけであり、一般の代理人手続きの申込みと何ら変わることがないからです。

中には金融機関に食って掛かったり、アドバイスを受けた公証人に泣きつく方もいらっしゃるようですが、本人の意思能力があることが前提の委任契約である以上、あとは金融機関の通常の代理人手続きに則って対応して頂く以外に方法はありません。

また、代理人手続きを行う中で、金融機関から委任者の意思確認を求められているにも関わらずそれを拒絶した場合は、金融機関から本人はすでに意思確認が出来ない状態にある、とみなされ、対応してもらうことが難しくなる可能性もあります。

作成した公証人や弁護士に相談したとしても、金融機関が通常の代理人手続きとして規定されている手続きを求めているにも関わらず、それを省略して委任及び任意後見契約公正証書のみを以って金融機関に手続きを求める事は、金融機関に対して通常の手続きを無視して特別の手続きを求めることと同義であり、覆すことはまず難しいでしょう。

ここに一般の法律家と、実務経験のある法律家との認識の違いが出てきます。

委任及び任意後見契約(移行型任意後見契約)の活用を考える場合は、先ずはその実務に精通した行政書士等に相談し、委任及び任意後見契約が最善の方法であるか検討して貰うこと、既に委任及び任意後見契約を締結している場合は金融機関との対応の間に入って貰うことも、スムーズな運用に繋がる方法の1つであると思います。

新社会人の資産形成・いつまでにいくら貯めるべきか

社会人になって自分の将来を考えて資産形成を始める方も多い事と思います。しかし資産形成と言っても具体的な目標がある方は別として、幾らを何時までに貯めるべきかを認識して行われる方は少ないのではないでしょうか?

何事も目標なしに開始して良い結果が生まれる事はそう多くはありません。ここでは先ず社会人となった方が何時までに幾らの資産形成を行っておくべきかを考えてみたいと思います。

一般に資産形成は先ず収入の3か月から1年分程度を確保すべきであると言います。

この根拠は社会保険制度にあります。今あなたがお勤めの会社を退職したとします。あなたは失業等給付、いわゆる失業手当を貰うべくハローワークに行かれることとなるでしょう。

失業手当は離職理由が自己の責任による解雇や自己都合退職の場合、3か月以内の支給停止期間が課せられます。端的に言えば、何か自分でやりたいことを見つけて退職しても3か月間は失業手当が貰えないのです。この期間は自助努力による生活費の確保が必要となります。

従って先ず社会人が目指す確保しておくべき資産は、3か月分の収入、近年の給与水準から考えて、略30万円×3か月=略100万円程度を目安にする必要があると考えられます。

では何時までに確保すべきか。通常、入社して半年、8割出勤を確保すれば年10日間の、入社して1年半、8割出勤を確保していれば年11日間の有給休暇が与えられます。ご自分の進むべき道を確定するには転職紹介サイトが発展している現在でも相応の考える時間は必要かと思います。また、今お勤めの先で、次の仕事に繋げるため習得しておくべき経験等もあるでしょう。自分自身を見つめなおすことに使う有給休暇の期間、社会人として必要な事項をマスターする期間を考えれば、2年から3年程度を積立期間として考えておくことが無理のない所なのではないか、と思います。

具体的には賞与1回で7万円、年間14万円を確保し、月2万円、年間24万円を確保すれば合計年38万円、3年間で114万円確保出来ます。決して無理な数字ではないと思います。

確保する方法は財形貯蓄か、新NISA(積立型)がお勧めです。財形貯蓄は給与支払時に希望金額を会社が差し引いて積み立ててくれますので、積立漏れがありません。

財形貯蓄がないなら、給与振込銀行で新NISA(積立型)を開設しておけば毎月指定日に銀行が引落を行ってくれます。もし会社で確定拠出年金を行っているなら、新NISAの構成商品も確定拠出年金と合わせた資産構成にしておくのも一考です。新NISAは自分が必要な時に一部払出が出来ますが、確定拠出年金はそうは行きません。長い目で動向を観察し、資産構成を都度変更して行く必要があります。

新NISAも同様の構成にしておき、自分の資産運用全体の動向を把握できるようにしておくことは将来の運用方法を考えて行く上で、重要なデータとなります。無論、時間の余裕がある方は、確定拠出年金は積極的に、新NISAは堅実に運用するという方法もありますが、運用間もない期間は極力シンプルに動向を把握できるようにしておく方が余分な気を遣う必要が減るのではないかと思います。

入社3年で100万円が確保できたら、次の目標は400万円です。あなたは26歳位になっているでしょう。結婚費用は結婚には費用が略300万円かかると言われています。何をやるにしても長い人生を考えれば、30歳で400万円程度の資金は確保しておきたい所です。

上記事例に従って仮に3年で114万円を確保でき、それを年3%で運用出来れば複利運用で4年目には128万円になります。

そして、次の4年間は年3%の金利で年間60万円(毎月5万円で賞与時積立なし、ないしは毎月3万円賞与時12万円積立)積み立てられれば同じく複利運用の効果で、4年間の出来上がりは251万円となります。

これで4年間合計379万円。400万円には届かないものの決して悪い数字ではないと思います。

人生には何があるか分からないから、そんなこと考えていられない、という方もいらっしゃると思いますが、何があるか分からないからこそ1つの目安を持って準備して行くことが必要かと思います。

この1つ1つ積み上げて行く、という習慣こそ人生を豊かにする重要な要素なのです。

不動産の分割協議でお困りの方へ・相続人申告登記制度の活用

 相続人申告登記制度が令和6年4月1日から施行されました。この制度は簡単に言うと、土地建物に相続が発生していること、および不動産について何か事が起こった時の連絡先を登記上明らかにしておくことを目的とした制度です。

 住宅を建てる時や新しく道路を通すためには、予め土地の所有者に了解を取っておくことが必要です。先の東日本大震災のときも、仮設住宅建設や新たに道路を通すとき等に同様の手続きが必要となりました。

 しかし予算が付いて仮設住宅の建設や新しい道路を開通させようと自治体が候補地の謄本を確認した所、所有者が随分昔に亡くなっていた事が判明しました。土地によっては現在の所有者が10名以上に上り、行方が分からない方も多くいることが判明したのです。これでは災害の復旧が迅速には進みません。

 そのため国は令和6年4月から、相続が発生して不動産を取得した相続人に、相続開始から3年以内に相続登記を行うことを義務付けました。令和6年4月以前に発生していた相続についても未登記なら、令和9年3月末までに相続登記の申請を行う必要があります。

 もし申請を行った場合は行政上の義務違反として10万円以下の過料の対象となります。

 しかし、相続で不動産を取得した方が皆さん3年以内に遺産分割協議が終了し、相続登記を申請できる訳ではありません。いろいろな事情で10年以上相続登記が出来ない場合もあります。

 この問題を回避するため新設されたのが「相続人申告登記制度」なのです。

 相続人申告登記制度とは遺産分割協議が終わっていなくとも、相続人の一人が①登記簿上の所有者に相続が発生したこと、②自分が相続人であること、を申し出れば、とりあえず申請義務を履行したものとみなしてもらえる制度です。

 申出を行うと、法務局が登記簿上に申出をした相続人の名前や住所を記載してくれますし、登録免許税もかかりません。

 ただし、売却などを行うときは、きちんと相続人を登記する必要があります。

 相続人同士が今後を話し合う中で、いつの間にか争いとなってしまうことがあります。

第一の原因は、相続人間の意見がまとまらないことです。先ずはお互いの頭を冷やして、円滑な相続を進めるためにも、「相続人申告登記制度」のご利用を考えて頂くことをお勧めします。

相続不動産の名義変更手続きの義務化・相続登記の申請義務化と相続人申告登記について

相続が発生したものの、分割協議が終わっていないので名義変更が出来ていない不動産をお持ちの方も多いと思います。

今までは名義を故人のままにして将来分割協議が成立した後に名義変更を行うことが通例となっていました。しかし、令和6年4月1日以降はそのような対応は出来なくまります。

「相続登記の申請義務」が施行されるからです。

1.相続登記の申請とは

「相続登記の申請義務」とは「相続や遺贈」により不動産を取得した相続人に対し、自己の為に相続の開始があったことを知り、かつ、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をすることを義務付けるものです。

正当な理由がないのにその申請を怠ったときは10万円以下の過料に処されます。

既に相続が発生している場合も、未登記であれば相続登記の申請義務が課されます。但しこの場合は施行日から3年、令和9年3月31日が履行期日となります。

2.正当な理由とは

正当な理由が認められる類型としては、①相続人が極めて多数に上る場合、②遺言の有効性等が争われる場合、③重病等である場合、④DV被害者等である場合、⑤経済的に困窮している場合、等が挙げられます。

これらに該当しない場合でも、登記官が個別事情を丁寧に確認して「正当な理由」があると判断した場合は認められます。

しかし、「相続登記の申請義務」が東日本震災時に、何世代にも渡って相続登記が行われていない土地等に対して現行法での対応が困難だったことを踏まえて施行されていることを考えれば、相続人が把握できるにも関わらず、兄弟姉妹が多いとか、名義人が先々代の名義のままになっているとかの理由で登記がなされていないことを、「正当な理由」として主張することは難しいものと考えられます。

3.申請義務違反があった場合

申請義務違反があったとしても、すぐに過料が課されるわけではありません。

登記官は申請義務違反を把握すると、先ず相続人に「義務の履行」を催告します。相続人が催告に応じて申請をすれば、過料は課されません。

しかし、催告が行われたにも関わらず「正当な理由」がなく申請をしなかった場合は、裁判所に「過料事件の通知」が行われます。この「過料事件の通知」が行われると、裁判所が過料を科する旨の裁判を行うこととなります。

万一、相続登記の申請を行っていなくても、催告時に申請を行えば過料に課されることはありません。

4.分割協議が完了していない場合

とは言うものの、相続開始後3年以内に分割協議が完了しないケースも少なくはありません。また過料に課されることを恐れて焦って分割協議を行ってもかえってまとまらないケースもありえます。

その場合の対策として「相続人申請登記」の手続きが新設されました。

これは、①登記簿上の所有者につき相続が発生したこと、②相続人の1人が自らがその相続人であること、を登記官に申し出ることで、申請義務を履行したものとみなす制度です。

「相続人申請登記」を受けた登記官は、所要の審査をした上で、申出をした相続人の氏名・住所等を職権で登記します。これは登記簿を見た人が、相続が発生していること、少なくとも相続人1名の氏名・住所を把握できるようにすることを目的とする制度です。云わば連絡先の表示登記と考えた方が良いでしょう。

添付資料は、申出をする相続人自身が、所有権の登記名義人(土地の持ち主)の相続人であることが分る戸籍謄本だけです。登録免許税も非課税です。

何より、複数の相続人がいても特定の相続人が単独で申出が出来、法定相続人の範囲や法定相続分の割合の確定が不要であることは、今後のことについて話し合いが出来ていない相続人にとって、極めて有効な制度と言えます。

もちろん不動産の売却などを行う場合には正式な相続登記を行う必要がありますが、逆に考えれば、「相続人申請登記」さえ行っておけば過料に課されることもなく、売却処分も出来ないということになります。

5.まとめ

現在、日本において所有者不明土地は約410万ヘクタール、九州本島を上回る面積に上ります。そしてその原因の62%が相続登記の未了によるものです。

所有者不明土地は災害発生後の復旧・復興作業にも大きな影響を及ぼします。次世代を担う方々に対する障害を残さないためにも「相続登記の申請」や「相続人申請登記」を積極的に活用することが望まれています。

相続が発生したときに本当に必要となる手続き

相続が発生したとき、多くの方は相続税のことを頭に浮かべる様ですが、相続税を考える前に率先して行うべきことがあります。主な手続きは以下の通りです。

手続き期日主な届出先
死亡届の提出7日以内  市町村
受給者死亡届の提出国民年金14日以内
厚生年金10日以内
年金事務所や
年金相談センター
健康保険・介護保険
資格喪失届の提出
14日以内市町村
世帯主変更届の提出14日以内市町村
公共料金等の名義変更14日前後各契約先
遺言書の確認
相続人・相続財産の確定
相続放棄・限定承認手続き
3か月以内法務局・自宅・公証人役場等
金融機関等
家庭裁判所(必要時)
準確定申告4か月以内税務署
相続税の申告・納付10か月以内税務署

第1のポイントは死亡届の提出、受給者死亡届の提出、資格喪失届の提出、世帯主変更です。

先ず死亡届の提出の提出がされませんと戸籍謄本に相続人の死亡事実が掲載されず、相続手続きは始められません。

死亡診断書で分かるだろうと考えられる方もおられます。これは死亡診断書で保険金の請求が出来ること、年金事務所や役所で死亡診断書の提出を求められることによる様ですが、死亡診断書で手続きを開始して貰えるのは保険会社と役所だけです。

銀行や証券会社、法務局は役所が死亡の事実を確認し、戸籍謄本に死亡日が掲載されない限り手続きに入りません。戸籍謄本に掲載されることで誰が法定相続人となるかが初めて確定するからです。つまり申出人が「法定相続人であること」=「正当な権利者であること」を確認できない限り、銀行や証券会社、法務局は動いてくれないのです。

第2のポイントは相続人と相続財産の確定です。死亡届が提出されれば2週間程度で死亡の事実が掲載された戸籍謄本が出来上ります。あとは相続人である事を証明できる戸籍謄本を取得すれば金融機関から残高証明書を取得する条件が整います。残高証明書が取得できませんと相続を放棄すべきか否か考えることが出来ません。その他、市町村や税務署に地方税や国税の滞納がないかどうかも調べておいた方が良いでしょう。

放棄を行う場合は相続開始から3か月以内に行う必要があり、1回申し出たら撤回することは出来ません。借入金がある場合等は十分に確認する必要があります。

第3のポイントは準確定申告です。これは死亡者の所得税の確定申告で、最低でも年金の源泉徴収票が必要になります。税務署相手ですから期日は厳守です。

以上3つのポイントのキーワードである「死亡届」、「残高証明」、「年金の源泉徴収票」は忘れずに手続きや確認をしておく必要があります。

これら3つのポイントをクリアしませんと、皆さんが心配される相続税について、場合によっては申告する必要があるか否かさえ確認することが出来ないのです。

なお、誤解されている方も多いですが、相続税の申告・納付には「遺産分割協議の作成」や「相続財産の名義変更」は必須条件ではありません。誰が相続するか決まっていないなら一旦法定相続分で相続する事として申告することが可能だからです。

将来、遺産分割協議が完成した時点で、申告をし直すことも可能です。

但し協議確定後4か月以内に行う必要があることは覚えておいてください。

本人以外の方による預金払い出しに潜む危険性

本人が入院して、あるいは介護施設に入って銀行に行けなくなったとの理由でご家族がご本人のキャッシュカードを使って払出を行うケースがあります。

配偶者だから、子供だから、兄弟だから等の理由で行われている様ですが、キャッシュカードの貸与は銀行の預金規定に違反する行為です。

銀行が知った場合は原則払出が出来なくなりますし、万一本人の相続が発生した場合、相続人から訴えられる危険があります。払出の事実は銀行の履歴に残りますし、胡麻化すことは出来ません。

安易に払出を行うよりも、先ずは銀行に事情を説明し、対応を検討して貰う必要があります。

銀行にとっては個別案件となりますので、経常業務には載っていません。窓口の係の方よりも上席にお願いして対応して頂く方が良いでしょう。もしご自身で交渉するのに不安があるときは事前にFPや行政書士等に相談し、場合によっては同行をお願いした方が良いと思います。

昨今は夫が施設に入り、費用捻出のため高齢の妻が窓口で相談する等のケースも増えていますが、窓口で額面通り法定後見人を薦められそのまま退店させられてしまうことも多い様に見受けられます。

また説明を聞いても十分に理解出来ず、何をどうしていいか分からないという場合もある様です。

銀行も法定後見を付けるには場合によっては半年以上の時間がかかる事は知っています。費用のかかる事も知っています。本来、後見を付けるまでもない方にも後見人を要求することは、ある意味無責任な行為です。

先ず銀行に行き、きちんと事情を説明する。法定後見を付ける以前に、どうすれば必要な資金を払い出すことに協力して貰えるか、現状に向き合って貰えるか、FPや行政書士等と連携を取りながら、相談し、交渉を進めることをお勧めします。

失業手当の算出方法・基本手当の日額とは

退職や転職を考える場合、失業中の生活をどの様に支えるかが問題となります。ここでは基本手当、いわゆる失業手当の算出方法を説明します。

基本手当は離職の日以前2年間に雇用保険の被保険者であった期間が通算12か月以上ある場合(倒産等や会社都合の解雇等による場合は離職日前1年間に被保険者期間が6か月以上ある場合)に支給され、失業手当とも呼ばれています。

基本手当は次のように支給されます。

①賃金日額を算出⇒②基本手当の日額を決定⇒③所定給付日数を限度に支給

1.賃金日額

賃金日額とは、離職前の1生活費当りの賃金額に相当するもので、原則的に次の様に計算します。

「雇用保険の被保険者としての最後の6か月間の賃金総額÷180」

(賃金総額からは臨時に支払われる賃金や3か月超の期間ごとに支払われる賃金は除きます)

2.基本手当の日額

基本手当の日額は、実際に支給される1日あたりの額であり、「賃金日額×一定の率」で算定します。この一定の率は、60歳未満の場合は80/100~50/100の範囲、60歳以上の場合は80/100~45/100の範囲で定められます。

「一定の率」は賃金日額が低い程、高くなります。

3.所定給付日数

所定給付日数は基本手当の支給限度日数のことです。

一般の受給資格者は、被保険者期間が10年未満の場合90日、20年未満の場合120日、20年以上の場合150日が支給限度日数となります。

倒産や会社都合により退社された方は支給限度日数が年齢、被保険者期間別に次のようになります。

1年未満5年未満10年未満20年未満20年以上
30歳未満90日90日120日180日
35歳未満90日120日180日210日240日
45歳未満90日150日180日240日270日
60歳未満90日180日240日270日330日
65歳未満90日150日180日210日240日

以上の通り、失業手当は離職前6か月間の賃金と、被保険者期間を確認することで算出することが出来ます。

その他、基本手当(失業手当)はハローワークで求職の申込をし、失業の認定を受けてから7日間の待期期間を経てからでないと支給されないこと、自己都合による退職の場合等は待期期間後、最長3か月給付されない(給付制限)期間があることは認識しておく必要があります。

転職や退職は人生の大きな岐路です。ご検討される際は基本給付のことも加味しておくことをお勧めします。

定年後に退職する場合の手続き

定年後の働き方は大別すると「再就職」と「継続雇用」に分かれます。

ここでは「再就職」を行う際のポイントを確認して行きます。

退職後、再就職まで間が開く場合は雇用保険の失業等の給与(基本給付)の申請をすべきでしょう。会社から「離職票」を受け取り、住所地のハローワークに提出し、求職の申し込みを行い、受給資格が認められれば基本手当が受けられます。離職の日前2年間に、被保険者期間が通算12か月以上有り、65歳未満で、働く意思を持って求職活動中だが再就職出来ない場合、給付金の対象となります。受給期間は離職日翌日から1年間ですが、離職日翌日以降1年以内に傷病等で30日以上継続して職業に就くことが出来ない場合はその期間分受給期間を延長申請することが出来ます。

60歳以上65歳未満で定年退職する場合はハローワークで求職申込をした日から通算7日の待機期間後、基本手当の支給がされます。気を付ける点は60歳定年退職後、継続雇用中に退職する場合です。自己都合退職扱いにされた場合、待期期間に2か月の給付制限期間が加わりますので要注意です。

なお、60歳で定年退職後、再雇用で働く際に、賃金が大幅に低下する場合の給付金として高年齢再就職給付金があります。基本手当を受けている60歳以上の方で、雇用保険の被保険者であった期間が5年以上で、基本手当支給残日数が100日以上ある場合に給付されます。

支給期間は、残日数が200日以上ある場合は2年、200日未満である場合は1年(共に、65歳到達月まで)です。

支給要件は、賃金が、基本手当日額の算定基礎となった賃金日額×30×75%未満である場合です。

支給額は、賃金が、基本手当日額の算定基礎となった賃金日額×30×61%未満である場合は当月支払賃金×15%を最高に、以降75%に近付くにつれ逓減して行きます。

再就職手当が受け取れる場合は、再就職手当か高年齢再就職給付金の何れかを選択する事となります。

その他、退職後に確認しておいた方が良い事項を列挙しておきます。

雇用保険・失業等給付試算のため、給与
 明細を確認
・雇用保険被保険者証の有無を
 確認
・退職時に会社から離職票を受
 領
・失業等給付を受ける場合、ハ
 ローワークで求職申込
公的年金・ねんきん定期便等で加入記録
 等を確認
 (配偶者の分も同様)
・会社が年金手帳を保管してい
 る場合は受領
健康保険・退職後、どの医療保険制度に
 加入するか検討する
(国民健康保険、任意継続被保
 険者、家族の被扶養者)
・健康保険被保険者証の写しを
 取っておく
・退職後、本人及び配偶者分の
 健康被保険者証を返却
・国民健康保険加入の場合は会
 社から健康保険資格喪失証明
 書を受領し、資格喪失後14
 日以内に市町村窓口で手続き
・任意継続被保険者の場合は退
 職後20日以内に手続き
税金・退職後の住民税支払資金を確
 保
・定年退職後、年末以前に退職
 し、再就職しない場合は確定
 申告が必要
住宅ローン・退職時に住宅ローンが残る場
 合は残高を確認
・退職後の返済計画に無理がな
 いか事前に試算
生命保険・会社の団体保険に加入してい
 る場合、継続が可能か確認
 解約する場合、退職後の保障
 について検討
・退職後の必要保障額を試算

定年後、「再就職」を選択する場合で再就職まで間が開く場合、精神的なプレッシャーは大きなものとなります。日本の場合、社会保険制度が充実していますが、分り易いものとは言えません。万一ハローワークでもカバーし切れない事が生じた場合は、FPに相談するのも方法の1つと言えます。

生命保険の優先順位

人生で一番大きな買い物はマイホームと言われていますが、生命保険もまた人生で2番目に大きな買い物と言われています。月1万円としても社会人となって1年目から始めれば略40年で480万円、途中の更新や保険増額があれば月平均3万円として1,480万円を支払うこととなります。目的に合った保険を選んでおかないと、場合によっては掛捨てとなり無駄な支出となってしまいます。そのため生命保険加入を考えるときは保険の目的を考える必要があるのです。

保険の目的は4つに分類できます。①世帯主に万一があったときの備え、②病気やけがによる入院や手術への備え、③教育資金の準備、④老後資金の準備、です。どの保険商品がそれに該当するか分類すると以下の通りになります。

①世帯主に万一があったときの備え:終身保険、定期保険、収入保障保険

②病気やけがによる入院や手術への備え:医療保険、がん保険、介護保険、所得補償保険

③教育資金の準備:学資保険

④老後資金の準備:個人年金保険

生命保険を選ぶ場合は先ず保険商品毎の目的を確認し、その目的が自分に合っているかを考える必要があります。

一般に保険加入の優先順位は①世帯主の死亡保障、②夫婦の医療保障、③妻の死亡保障、④こども保険・老後の保険、と言われています。

しかしこれは従来型の「成人前の子供がいる夫婦家庭」をモデルとした考え方で、様々なライフプランを持つ方々がいらっしゃる現在の日本に必ずしも合うものとは言えません。

個人的な見解でありますが、以下の考え方をお勧めします。

1.ベースとなる保険を確保する

:①医療保険(+がん保険)、②所得補償保険

独身の方、共働きの方、別居生活の発生、結婚、離婚など、人は様々な人生を送っています。どんな人生を歩む方も、先ずは個人として自分の生活を維持するための医療保険を確保することをお勧めします。独身者は言うに及ばず、家庭を持っても配偶者が身の回りの世話が出来るとは限りません。共働きの場合、幼い子供がいる場合、他に介護者がいる場合もあります。

社会保険でカバーできる部分も大きいので一般的には1日当り1万円程度の入院保障がある医療保険を確保すれば十分かと思います。もし30歳前に加入されるなら保険料も相当安く、払込完了60歳で終身医療保障となる商品もあります。入院する可能性が一生ついて回るリスクであることを考えれば費用の安いうちに終身医療保険に加入しておくことは必須です。ご家族にがんを患った方がいらっしゃれば、保険会社によっては1口からの加入も出来ますので、がん保険も追加しておくことをお勧めします。

又、余裕があれば所得補償保険で長期療養にも対応できる様に備えておくことをお勧めします。

2.ライフステージ別に保険をカスタマイズする

:③終身保険、④定期保険、⑤個人年金保険、⑥介護保険

ベースとなる医療保険(+がん保険)、所得補償保険を確保したら、次はライフステージ別に保険を準備します。

生きている人には医療保険、所得補償保険で十分ですが、残された方のことを考える場合は終身保険や定期保険が必要となります。つまり結婚したとき、子供がまだ独立していないときです。

一番大きな保障が必要となる期間は結婚して子供が出来、独立するまでの期間でしょう。一般的には25年間くらい、30歳で結婚して子供が出来たとすれば55歳までの期間です。

終身保険は一生涯の死亡保障を確保できる保険です。保険料は高めですが解約時には一部返戻されます。

定期保険は5年、10年等一定期間内の死亡保障を確保出来ます。保険料は安いですが掛捨てです。最近は保障年齢を80歳までとする保険が多い様です。

一生涯の保障を確保できると聞くと、多くの方が終身保険で大きな保障額を選びがちです。

一昔前までは終身保険で将来の貯金をしている、と考える方もいらっしゃいましたが、終身保険料は途中で使えるお金ではないこと、万一途中解約した場合の返戻金は相当減額されること等を考えると、大きな金額を終身保険につぎ込むことは資産形成上リスクにもなりかねません。いつでも自由に資金化出来る預金や投資信託として運用した方がいざという時の自由度は高まります。

ライフプランを確認し、子供も独立した後、どの程度の資産形成が出来るかを考えて、80歳以降に死亡したときに残す必要がある金額を終身保険、現在から80歳になるまでの期間は5年又は10年の定期保険で対応し、浮いたお金をNISA等で運用する方が遥かに費用が安く済みます。

子供が生まれたから学資保険、と考える方もいらっしゃいますが、運用効率やいざという時の自由度から考えると、むしろ定期保険とNISAを組み合わせることを考えた方が良いのではないでしょうか。

独身の方の中には介護保険を考える方もいらっしゃいますが、一般的には要介護状態になってからでないと利用できない事も考えておくべきです。要介護というと所謂認知症がある程度発症した状況です。介護保険も保険である以上、申出がないと保険金支払いが開始されない事を考えると、その時誰が自分の代りに申出を行ってくれるのか、考えておかないと死に金となります。子供のいらっしゃらないご夫婦も同様です。

老後のことを考える場合は介護保険より個人年金保険を視野に入れておくことをお勧めします。やはり若い時から加入された方が保険料が安いですし、収入が減って来た頃に年金受給開始までの補填として利用出来れば、将来の不安要素を減少させる効果があります。

以上、保険についての私見を述べさせていただきました。保険についてインターネットやCMで多くの広告が流れていますが、結局は自分の人生は自分一人のものです。保険会社のテンプレートに乗せられることなく、自分の人生の中での各々の保険の役割を考えて契約させることをお勧めします。