個人事業主の相続・小規模企業共済と事業用不動産等

個人事業主の相続が発生した場合、ポイントとなるのは「小規模企業共済」「事業用不動産」「事業性預金」の取り扱いです。

ここでは各々の取り扱いを検討する際のポイントをお伝えします。

被相続人の中には「小規模企業共済」を行っていた方も多いと思います。

そのようなケースでは、被相続人の死亡で廃業する場合もある一方、例えば相続人の配偶者が事業を継承する場合もあると思います。先ず知っておくべきことは、「小規模企業共済」は「共済金A」、即ち個人事業主の死亡を事由として受け取る等のケースが一番運用効果が高いことです。

「小規模企業共済」は「承継通算」、即ち個人事業主の配偶者や子が事業を全部一人で継承する事も可能です。但し原則、継承者は「配偶者か子」に限られます。従って「相続人以外の方」が「承継通算」することは困難です。「相続人以外の方」が事業承継する場合、一般的には「共済金A」の事由で請求を行うことをお勧めします。

次に「事業用不動産」についてです。

被相続人の中には、自宅を仕事場として事業を行っていた方も多いと思います。仮に「配偶者や子」が事業を全部一人で継承する場合は「小規模宅地等の特例」を使って敷地の相続税評価額を最大50%引き下げる方法もあります。活用の検討をお勧めします。但し、相続人以外の方が事業を引継ぐ場合は活用出来ませんし、逆に相続税額が加算される場合もあります。

「配偶者に対する相続税額の軽減」を利用して、配偶者(妻)に相続させる方法をとる方も多いですが、次に配偶者(妻)の相続が発生した場合は「配偶者に対する相続税額の軽減」は使えませんし、場合によっては亡き父の相続税額と亡き母の相続税額を合算したらこんなに相続税額が多くなっていたのか等ということもあります。むしろ二次相続(配偶者死亡時の相続)も考えて、子が「小規模宅地等の特例」等の利用を検討することをお勧めします。

被相続人亡き後の配偶者(妻)の住まいは「配偶者居住権」の利用を行うことで確保できますし、自宅を相続した子の不動産に対する評価額も、軽減される可能性があります。

どの制度も全部一人で承継することが条件となりますが、承継しない相続人に対しては不動産の代わりに「小規模企業共済」の共済金を相続させる方法もあるでしょう。

最後に「事業性預金」です。個人事業主の場合、事業性預金の名義を「○○屋 〇山〇太郎」等にして利用している場合も多いことと思いますが、この場合も個人「〇山〇太郎」様の相続財産となります。原則、「〇山〇二郎」様が事業を承継しても名義変更して使用することは出来ません。新たに「〇山〇二郎」様名義の預金を作成する必要があります。

以上の点は税理士の方とご相談頂く必要がありますが、ご相談は相続を専門とする税理士の方にされる事をお勧めします。「配偶者居住権」や「小規模宅地等の特例」は一般の税理士の方が詳しいとは限らないからです。セカンドオピニオンとして相談される事も可能です。

相続が発生した場合、その時の相続税が一番安く済む方法や、一番全員の同意が取りやすい方法を選択するケースが目立ちますが、先ずは落ち着いて将来も見据えて考えることをお勧めします。相続手続きはやり直しがきくものではありませんから。

なお、遺言書があっても、相続人全員の同意を以って遺言書とは異なる遺産分割協議書を作成することで相続人全員の意に沿う相続手続きを行うことも可能です。

相続手続きのヒント‐法定相続情報一覧図の利用

 相続手続においては、相続人を特定するため、被相続人が生まれてから亡くなるまでの一連の戸籍謄本が必要となります。

 その戸籍は一般的には生まれてから結婚するまでの一団、結婚してから亡くなるまでの一団に分類されます。大抵は生まれたときに父親の戸籍にその生誕が記載され、その後父親が本籍を変更しなかったら結婚するまでの戸籍は1通、結婚してから本籍を一切動かさなかったら結婚後の戸籍も1通。一般的には最低2通の戸籍が必要となります。

 但し役所の都合で例えばコンピュータ化等、戸籍の様式が変更になることもあります。その場合は更に1通戸籍が増える事がありますし、戦後の戸籍法改正で家単位の戸籍から現在の家族単位の戸籍に変更となる時期に生まれていたなら、同じく1通戸籍が増える事があります。

 いずれにしても1通戸籍を取れば用が済む方はまずいらっしゃいません。その結果、相続手続きに当たって銀行に戸籍を要求された場合、その都度、戸籍の1セットを郵送手続きや持参する羽目に陥ります。

 この不便を解消するのが法定相続情報一覧図です。これは簡単に言うと被相続人が誰で、相続人に誰がいるかの相関関係を示した図です。一連の戸籍謄本を取得した後、所定の申請書等と共に一覧図を作成して所定の法務局に申請すると、法務局が一覧図の内容を確認して、間違いがなければ、正しく被相続人との相関関係が記載されている法定相続情報一覧図として法務局が認証印を押した写しを発行してくれるのです。法務局の手数料はかかりませんし、何通とっても交付手数料は無料です。

 法定相続情報一覧図はありがたいことに、銀行では戸籍謄本のセットと同じものとして扱ってくれるのです。

 つまり手続きをする銀行の数だけ発行してもらえば、戸籍謄本のセットが1つしかなくても代わりに相続情報一覧図を銀行に渡すことで、一遍に複数の銀行手続きに着手することも可能となるのです。

 発行手続きの詳細は法務局のHPでも確認できますし、弁護士、司法書士、税理士、行政書士に代理人として申請手続きを依頼することもできますので、一度確認してみてください。

 戸籍謄本の取得に苦労したという方は是非もうひと頑張りして法定相続情報一覧図を作成されることをお勧めします。

相続財産の調査・負の相続財産

相続財産には正の相続財産と負の相続財産があります。

そして「正の相続財産ー負の相続財産=相続税の課税財産」となります。

少し専門的に言えば、「被相続人の債務で相続開始時に現に存するもののうち、その納税義務者の負担に属する部分の金額」が負の相続財産となりますが、相続財産調査に当たっては、先ず何が負の相続財産になりうるか、を知っておく必要があります。

大きく言えば「被相続人の負担に属するもの」で、「被相続人の債務で、相続開始時に現に存するもの」や「被相続人に係る葬式費用」が対象となります。

「被相続人の債務で、相続開始時に現に存するもの」には住宅ローンや、公租公課(固定資産税など)がありますし、「被相続人に係る葬式費用」には通夜費用、仮通夜費用、本葬式費用、納骨費用、お布施、戒名料の他、通夜葬儀会場設置費用、遺体運搬費用があります。

負の相続財産調査として、先ずは以上の費用に係る領収書を整えてください。正の相続財産調査には金融機関への依頼などが必要となりますが、負の相続財産調査は以上の領収書が手元にあるか否かが重要です。紛失などのないように管理することが必要です。

一方、初七日法会費用や四十九日法会費用、遺体解剖費用は対象となりません。

その他、墓地購入費用や墓地購入ローンも対象となりません。

一旦、全ての領収書を揃えて、負の相続財産となるか否かを分類して行くことが大切です。

定年でリタイアしたとき考えること(NISAとiDECO)

60歳で定年して考える事の一つに、今後の資産積み立て方法もあると思います。

サラリーマンだっだ頃は、厚生年金や企業型確定拠出年金、財形貯蓄制度の利用などで自然に積み立てられていた資産も、退職後は自分でかじ取りをしなければなりません。

ここでは60歳以降の方が抑えておくべきNISAとiDECOの違いを見ておきます。

まず、投資可能期間です。NISAは無制限となりましたが、iDECOは65歳までです。

税優遇はNISAが運用益非課税に対し、iDECOは掛金全額所得控除、運用益非課税、受取時は公的年金等控除や退職所得控除が適用可能です。

年間投資額はNISAがつみたて投資枠120万円、成長投資枠240万円に対し、iDECOは国民年金第一号被保険者(自営業者等)の場合で、現在月68,000円が拠出限度額となっています。

ここまでは税制面でiDECOの優位性が目を引きますが、問題は途中引出しです。

NISAはいつでも途中引出しが可能ですが、iDECOは年金ですので老齢給付、障害給付、死亡一時金、脱退一時金のいずれかになります。また60歳以降で始めて加入する場合は加入後5年経過しないと受給出来ません。

運用している方の年齢が高くなるほど、予測できないときに払出が必要となる可能性は高くなる点は認識しておいた方が良いでしょう。

またiDECOの場合、金融機関への保管料等が必要となる点も認識しておく必要があります。企業型確定拠出年金の場合は勤め先が払ってくれていましたが、個人型確定拠出年金の場合は預けている個人が払う事となります。

運用を始める方の立場は千差万別で、どちらが良いとは一概には言えませんが、二者択一をする場合は少なくとも以上の点は認識しておいた方が良いでしょう。

またNISAもiDECOも金融機関によって取扱商品は違います。まずは上記の両者の違いを理解した上で、各金融機関の取扱商品やサービス、立地条件等も含めて検討されることをお勧めします。

定年でリタイアしたとき考えること(保険・年金)

人は誰もが年を取り、サラリーマンはいつか定年を迎えます。そのまま継続雇用で会社に残る方もいれば、定年を契機に一旦リタイアする方もいます。

リタイアしたとき、頭に浮かぶことの中に健康保険や年金があります。

先ず退職後の健康保険ですが、再就職しない場合、選択肢は3つです。

①任意継続被保険者となる。②国民健康保険に加入する。③健康保険に加入している家族の被扶養者となる。

任意継続被保険者とは勤めていたときに加入していた健康保険に継続して2年間加入する制度です。任意継続被保険者となるには、被保険者としての資格喪失日(退職日)から20日以内に保険者であった協会や組合に申し出る必要があります。

一方、国民健康保険の被保険者となるには、資格喪失日から14日以内に自分の住所地を管轄する市町村に申し出る必要があります。

つまり、①、②、③を自由に選択したい場合は最短14日以内に決定する必要があるのです。

任意継続被保険者の場合、勤務中の自己負担分は半分でしたが、退職後任意継続被保険者となった場合は全額、単純に言えば、倍の金額を払う必要があります。また、任意継続被保険者となれる期間は2年間のみ、その後は国民健康保険に加入するか、被扶養者となる必要があります。

国民健康保険の保険料は、市町村ごとに前年の所得や保有資産によって決定されますが、一般的には加入後の保険料はかなり割高になる可能性があります。

その他、任意継続被保険者の場合、健康保険組合によっては独自の付加給付がある先もありますので一般的には健康保険より有利と言われています。

被扶養者となる場合は、扶養者による生計維持要件等があります。扶養者の保険料負担は増えますが、被扶養者にかかる医療費は扶養者の確定申告時、医療費控除の対象になりえます。

どれが自分に合っているかは人それぞれです。ただ、任意継続被保険者も国民健康保険も保険料の前納が可能であること、前納すれば月々納めるよりトータルの保険料は割引されることは覚えておいた方が良いでしょう。

無論、①、②、③を選択後でも、健康保険適用事業所に再就職した場合は改めて健康保険の被保険者となります。

以上の点だけを考えると、被扶養者となれないなら、一旦任意継続被保険者となり、2年後に国民健康保険加入という選択肢が一般的なのかもしれません。

年金は最低限以下のポイントを押えておく必要があります。

①原則65歳から給付となること、②60歳からの繰り上げ給付も可能だが、繰り上げをすると年金額が1か月当り0.4%減額されること(60か月なら24%の減額)、③繰り上げを行う場合は厚生年金と同時に行う必要があること、④66歳からの繰り下げ給付も可能で、繰り下げの場合は国民年金のみ、厚生年金のみ繰り下げの選択が可能であること、⑤繰り下げは最長10年可能で、繰り下げすると年金額が1か月当り0.7%増額されること(15か月なら10.5%、120か月なら84%)

よく、繰り下げした場合、貰い始めて何年ぐらいで65歳で受け取り始めた額と同額の額になるかを計算した記事も見かけますが、個人的にはいかがなものかと思います。

リタイア後は一切働かない、という方もいらっしゃると思いますが、それももったいないのではないでしょうか。もし自分のやってみたいことがあって、それで人に喜んでいただけたなら、芝居でも、漫才でも、レジ係でも、交通指導員でも、身体の動くうちは何でもやった方が良いと思います。

理想を言えば、リタイア後やってみたいこと等で65歳まで生活を繋いで、65歳から国民年金だけ貰う、やってみたいことがうまくいっていれば厚生年金給付を66歳以降まで伸ばす、と言った所が、社会人としての人生をフェードアウトするに当たって妥当な所ではないでしょうか。無論、60歳から65歳になるまでの間に人生のキャッシュフロー表をチェックしておく必要はあります。しかし、リタイアしていきなり人生のキャッシュフローと言われて、考え込むのもいかがなものかと思います。

先ずは健康保険をどうするか考えて、年金は最低限のポイントを抑えてじっくり構えることも大切なのではないか、と思います。リタイアした後までストレスに悩まされる必要はないのですから。

被相続人の医療費と準確定申告

一般的に準確定申告は死亡者が自営業者だった、年間2千万円以上の給与所得があった、公的年金が年間400万円以上あった人などが対象となります。

この情報を知って、「私たちには関係ないもの」と考える方も多いと思います。しかし、準確定申告をする、しないに関わらず、被相続人にかかった医療費を見直してみることは必要かと思います。

年金の源泉徴収票をご覧になると分かりますが、一般的に年金は所得税等が控除されて支払われています。ご高齢でご病気などがある方は、医療費控除の確定申告をして源泉徴収された税金から還付を受けられる方もいらっしゃると思います。

準確定申告というのは毎年2月から3月にかけて行っている確定申告を被相続人の死亡後4か月以内に行う手続きなのです。つまり被相続人が支払った医療費のうち、亡くなった年の1月以降に被相続人が支払った医療費は準確定申告の医療費控除の対象になるのです。現代社会において、大抵の人は亡くなる時に病院でなくなります。亡くなるまでの医療費の内、被相続人名義で支払っている医療費は準確定申告における医療費控除の対象になるのです。

仮に配偶者が被相続人の医療費を支払っていたなら、その医療費は、被相続人の未払医療費を相続人である配偶者が支払ったものとして、相続税法上、配偶者の債務控除の対象になります。相続人である子が支払っていても同様です。

但し気を付けて頂きたいのは、被相続人が、子の扶養者になっている場合、つまり被相続人の生前、被相続人の医療費を子が医療費控除の対象として申告していた場合です。その場合、子が支払った被相続人の医療費は例年通り、子の確定申告において医療費控除の対象として申告する必要があります。

相続人でもない、全くの他人が、被相続人の医療費を支払っていた場合は、相続人に対して弁済を請求することになり、赤の他人の税法上の控除などは行われませんが、その様なケースは現代社会においてまず発生しないでしょう。

つまり、被相続人の医療費一つについても何らかの税務上の処理が発生する場合があるのです。相続に当たっては、銀行預金などの正の相続財産のみならず、負の相続財産(債務控除)についても考えておく必要があります。場合によっては準確定申告の対象となり、還付が受けられるものもありますから。なお準確定申告の還付金は、相続財産に当たりますのでそのあたりも気を付けて下さい。

危険な相続・片親と兄弟姉妹が相続人であるとき

片親が亡くなって、残されたのはもう一人の片親と自分の兄(弟)、というケースはよく見かけます。そして残った親が亡くなった後、仲が良かった兄(弟)との縁が切れた、というケースも耳にすることがあります。

これは兄弟がそれぞれ結婚している場合に見られがちです。片親が存命の間は、兄弟は親を軸にまとまります。残された親は兄弟にとって大切にしたい共通の人ですから。

相続財産についても、大方の兄弟は亡くなった父(母)の財産は取り残された母(父)に相続させることでまとまることが多いです。悪い事ではありません。

しかし、問題は残された片親が亡くなった時です。

両親が亡くなったあとは、それぞれの兄弟にとって一番大切な人は、自分の配偶者や子になります。家族が内の人であり、兄弟は外の人となります。大切にしたい共通の人がいなくなるとどうしても意見がまとまりにくくなり、結果遺産分割において仲違いしてしまうことがあります。

一旦お互いの主張を抑えて、親の財産(不動産など)を共有にする兄弟も多いですが、時間が経つと将来の取扱いについての意見が合わなくなって、結局売却して遺産分割せざるを得なくなり、最悪、遺産分割後は兄弟の縁が切れてしまうこともあります。

両親亡き後、兄弟で円満に取り扱うに当たっては、お互いに相当の努力が必要となることは、覚悟しておく必要があると思います。

こうした問題を回避するには、片親が存命中に、片親と兄弟が話し合って、両親亡き後の財産をどうするかも考えて、遺産分割を行うことが必要なのではないかと思います。具体的には片親が相続するのは現預金のみとして、他の不動産などは子に相続して貰う等の方法です。

相続財産の基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の人数です。仮に片親と子2名が相続人である場合は4,800万円が基礎控除額となります。

よく、配偶者に対する相続財産の軽減制度を利用してすれば、配偶者の相続する財産は1億6,000万円まで非課税となるのだから、残された片親の相続財産はなるべく多くした方が良い、と考える方も多い様ですが、それは問題の先送りです。

両親亡き後、子2名の非課税枠は4,200万円になります。仮に残された片親が全ての財産を相続し、その金額が1億円だったとします。そしてそのまま1億円の財産が残っていたとすれば、単なる納税の先送りです。仮に相続財産が4,000万円だったとしても、こんどは兄弟だけで遺産分割協議を行うわけですから、前述した仲違いに発展する可能性は十分あります。

むしろ片親が存命中に、将来兄弟がどうあって欲しいかも踏まえて、遺産分割について話し合った方が、そして出来れば片親が存命中に、親子了承の上で、現預金以外の財産を子に相続して貰った方が、遥かに争いが少ないのではないかと思います。

例えば、実家の土地建物の名義は子の一人としても、家屋に配偶者居住権登記を行えば、親の存命中は居住権が認められますし、子の相続する不動産の評価額も低く抑える事ができます。

その代わり、実家を相続しない子には、代償として実家を相続する子から幾らかの現預金を支払うとか、実家を相続する子が相続を契機に親と同居を始めるとか、考えられる方法は多くあります。むしろ残された片親の将来の生活と、両親亡き後の将来も考えた相続を、親の希望も聞きながら共に話し合うことの出来る絶好の機会なのです。

親もまだ元気なので、とりあえず残された片親に全て相続させる。この「とりあえず」という考えはなるべくしない方が宜しいのではないか、と思います。

相続発生時の手続きについて

相続発生時は、特定の期間までに行わなければならない事が多くタイミングを見計らって行う必要があります。以下では相続発生時から行うべきことを順に追ってゆきます。

1.相続発生後7日以内:死亡届の提出

提出先:死亡者の本籍地・死亡地、または届出人の所在地の市町村役場

提出者:死亡者の親族・同居人など(葬儀社の代行も可)

必要なもの:提出者の印鑑

立ち会った医師が作成する死亡診断書と、遺族が記入した死亡届を提出する。死亡届は時間外受付も可能だが、併せて提出する火葬許可申請書は時間外受付不可の自治体もある。

死亡届と火葬許可申請書を提出すると火葬許可証が公布されるので、火葬場に提出する。

火葬後に火葬済印が押された火葬許可申請書が返却されるが、これが埋葬許可書となる。

なお、死亡届と死亡診断書は後の手続きに必要となるため提出前にコピーを取っておくこと。

2.相続発生後10日以内:受給権者死亡届(報告書)の提出

提出先:手続きする人の住所地の年金事務所、街角の年金相談センター

提出者:遺族

必要なもの:死亡診断書のコピー、死亡者の年金証書、死亡者と提出者の住民票や戸籍謄本等

年金の受給権者死亡届は、国民年金は14日以内、厚生年金は10日以内に提出する。年金機構にマイナンバーを提出していない場合、死後も年金が支給され続けてしまう可能性があるため速やかに手続きを行う。併せて未支給年金・未支払給付金請求書も提出する。

受給資格は死亡日に消滅するが、支給は死亡月分まで行われる。2か月に一度の支払いの為、未払いとなるケースもあり、その場合遺族がその分を請求できる。

3.相続発生後、14日以内:健康保険・介護保険資格喪失届の提出

提出先:市町村役場

提出者:遺族

必要なもの:死亡者の健康保険証、介護保険証、提出者の印鑑

自治体によっては死亡届により手続きが行われる場合もあるが、そうでない場合は遺族が手続きを行う必要がある。健康保険組合や協会けんぽに加入していた場合は事業主が手続きを行う。死亡者を被保険者として被扶養者がいる場合は全員分の健康保険証を事業主に返還した上、被保険者は国民健康保険への加入または他の家族の被扶養者となるなどの手続きが必要となる。

4.相続発生後、14日程度:世帯主変更届の提出・公共料金などの名義変更

世帯主変更届は15歳以上の遺族が2名以上いる場合に住所地の市町村(戸籍課など)へ提出が必要。その他、電気・ガス・水道・NHK受信料・電話料金など生活関連の名義変更の必要有無を確認しておく必要がある。

但し、キャッシュカードの解約や、スマホの解約、SIMカードの解約は慎重に行う必要がある。

デジタルサービスのアカウントは現在一身専属性が強く、遺族と言えど相続等は出来ない。

データのバックアップやメール等は解約すると再生不可となる場合がある。

同様にパソコンやスマホの処分などは一通り相続手続きが落ち着いた後に行う方が無難。

5.相続開始後、3か月以内:遺言書の確認、相続人や相続財産の特定、相続放棄と限定承認

民法上、相続放棄や限定承認は相続開始後3か月以内とされている。遺言書の確認や相続人、相続財産の特定は3か月以内に行わなければならないという決まりはないが、それらが分からないと放棄して良いものかどうかも判断できない事と思う。

先ずは相続開始後2か月程度を目途に遺言書の有無を確認すると共に相続人の特定や相続財産調査等を行う事が必要。

遺言書は故人の本棚や机の引き出しなどを確認すること。なお自筆証書遺言の場合は発見しても決して開封してはいけません。家庭裁判所で「検認」という手続きを行わないと過料が課される場合があります。自筆証書遺言を発見したら先ずは家庭裁判所や行政書士等に相談して下さい。

相続人調査は基本的には被相続人が生まれてから死亡するまでの一連の戸籍謄本が必要であるが、令和6年から最寄りの市町村で全国の戸籍が請求可能となった。一部コンピュータ化されていない謄本は戸籍を有する市町村へ請求する必要があるが、行政書士等に取得を依頼する方法もある。

相続財産調査は預金通帳、保険証書、金融機関からの郵送物等を手掛かりに問い合わせを行う。なお、生命保険については証書などがなくても生命保険協会あて未請求の保険の有無を確認することも可能。また、毎年市町村から来る不動産に係る固定資産税請求書は土地建物の評価を行う上で重要な資料となるので確保しておく方が良い。

6.相続開始後、4か月以内:準確定申告

提出先:死亡者の住所地を管轄する税務署

提出者:相続人

必要なもの:死亡者の源泉徴収票(年金)、相続人全員の押印など

死亡者が自営業だった、年2千万円以上の給与所得があった、公的年金が年400万円以上あった人などが対象となります。なお、故人が給与所得者であった場合は年末調整で事業主が納付手続きを行うため、申告は不要です。

7.相続人発生後、10か月以内:相続税の申告

よく相続税の申告までに全ての相続手続きを終わらせなければならないと考えている方もいらっしゃる様ですが、必ずしもそうではありません。

相続財産額が、基礎控除額(=3,000万円+600万円×法定相続人の人数)以下であるなら申告は不要です。先ずは上記の5に記載した相続人や相続財産の特定をキチンと行う事が争いの少ない相続の第一歩であると考えて下さい。

委任及び任意後見契約活用の留意点2・活用に注意すべき事例

委任及び任意後見契約(移行型任意後見)は高齢者にとって有効なツールの1つです。しかし、作成時期を誤ると本来の機能を発揮しない場合があります。

最近発生した事例をご紹介します。

1.作成までの道のり

ご高齢で単身、お子様もいらっしゃらないAさんは呼吸器の病気で病院に搬送されました。現在は呼吸器を装着され、胃ろうも行っているため外出も会話も出来ません。筆圧も弱くなり、文字を書くのも不自由となってしまいました。ただ、意識はありますので首を動かしたり、対話ボードを使ってコミュニケーションを取っています。

会計など病院外のことは妹のBさんがお世話をしていましたが、入院が長くなるにつれ入院費を立て替えて行くのが難しくなってきました。Aさん名義の預金を使おうにも、Aさんは会話も外出も筆記も出来ないため、引き出すことが出来ません。

Bさんが公証人に相談すると委任及び任意後見契約(移行型任意後見)を紹介してくれました。

「『委任及び任意後見契約』があれば意思能力が確認出来る間は代理権が証明できるので、金融機関の窓口で委任及び任意後見契約公正証書を提示すれば手続きが出来る。」

この様に説明されたBさんは、Aさんに説明して委任及び任意後見契約の作成手続きを行いました。委任及び任意後見契約作成には相談から始めて完成まで3か月程かかりました。

公正証書が出来上がると、Bさんは早速銀行に持参しました。

2.銀行の対応

委任及び任意後見契約を受けた銀行はこの様に考えます。

「Aさんは意思能力がある。従って受任者Bさんは委任者であるAさんから代理権を受任している。ならば代理人手続きに則って対応すればよい」

問題はこの代理人手続きです。これは各金融機関で対応がまちまちです。

本人に専用の委任状を書いて頂く銀行もあれば、電話で意思確認をする銀行もあります。

Aさんの場合、筆記は困難で電話を利用することも出来ません。

本件の場合は幸い銀行の職員が直接Aさんの病室を訪問して意思確認を行ってくれることになりました。

3.現実の手続き

ところがAさんの病室を訪れると大きな問題が発生しました。Aさんとのコミュニケーションが出来ないのです。

「銀行の預金を解約しますか?○○へ振り込みますか?手続きはBさんにやってもらっていいですか?」

幾ら呼び掛けてもAさんは職員を見つめるだけで何の反応も示しません。

Aさんは公証人が病室に訪問してから、公正証書を手にするまでの1か月程度の間に認知症が進行して意思確認がスムーズに出来ない状態になってしまったのです。

Bさんも必死に呼びかけますが、十分な反応はありません。

結局、銀行の職員に半日同席してもらい、様態の良いときを見計らって意思確認を行って貰い手続きを行う事が出来ました。

4.法律家の主張をうのみにしてしまう危険性

Aさんの場合は幸い銀行の対応の許容範囲が広かったため手続きを行うことが出来ました。

もし原則的な対応をされた場合、Aさんは意思能力がないものとみなされ、任意後見契約の発効を依頼され、預金の解約は後見監督人が就いてから、恐らくは2~3か月あとになってしまったことでしょう。後見監督人が就くと以降は後見監督人への手数料支払いも発生します。

経済的な負担はますます切迫したものとなっていた事でしょう。

本件の問題点は何だったのでしょうか?それは相談した相手が『法律の』専門家だったことです。

無論、法律に則った手続きは必要です。しかしご高齢で入院して、既に会話もできなくなっているAさんが委任及び任意後見契約を作っても、公正証書が完成したときには既に委任契約では対応出来なくなっている可能性は充分に予想できます。

いつ、どの様なタイミングなら「委任及び任意後見契約」が有効なのか、この点は『現場実務経験』の乏しい『法律の』専門家の盲点です。

確かに「委任及び任意後見契約」は有効な手段の1つではあります。しかし相談者の置かれている状況は百人百様です。相談者の状況を十分に踏まえてカードを切ることが必要なのです。

どうか「委任及び任意後見契約」をお考えの方には、先ずは『現場実務に精通した』行政書士等に、時期、状態を踏まえ、何が最善の方法であるか、をご相談頂くことをお勧めします。

委任及び任意後見契約活用の留意点・法律家の主張をうのみにしてしまう危険性

委任及び任意後見契約(移行型任意後見)は意思能力が認められる期間は委任契約として、認知症等が発症し意思能力が認められなくなってからは任意後見契約として利用できる制度です。

公証人や弁護士等の方による啓蒙も進み、昨今活用される方も増えてきましたが、他方その活用を啓蒙する公証人や弁護士の方々の中には必ずしもその実務に精通されているとは言えない方もいらっしゃる様です。

ここでは実際の現場における委任及び任意後見契約の位置付けを説明します。

先ず、皆様にご認識頂きたいのは、『委任及び任意後見契約があれば、意思能力が確認できる間は代理権が証明できるので、金融機関の窓口で委任及び任意後見契約公正証書を提示すれば手続きは出来る』と説明する公証人等の方は、法律論には精通しているが実務上の手続きは行ったことがない方が多い、という事です。

確かに委任及び任意後見契約により、委任者から受任者への代理権委任は証明できます。

しかし、委任及び任意後見契約の効果はそこまでなのです。

委任及び任意後見契約を受けた金融機関はこのように考えます。

「本人は意思能力がある。従って受任者は委任者から代理権を受任している。ならば当行の代理人手続きの手順に沿って対応すれば良い」

ここで法律家の方々が勘違いされるのは委任及び任意後見契約公正証書があれば、それだけで手続きが完了すると誤解されている点です。

銀行窓口で代理人手続きを取ったことがある方はお分かりになると思いますが、金融機関によっては委任状を持参しても金融機関独自の委任状を求められることもありますし、名義人本人に電話で意思確認を求められることもあります。昨今は、今後の代理人手続きに係る依頼書を求める金融機関もある様です。

すなわち代理人手続きの方法は各金融機関各々が決めており、統一されている訳ではないのです。

金融機関としては委任及び任意後見契約公正証書を持参しても、それは代理人が来店した、というだけの話で、あとは各々の金融機関の定める代理人手続きに乗せるだけの話です。

従って受任者は各金融機関の手続きに従って、委任者と共に別途個別の委任状を提出したり、金融機関が規定する依頼書を記入したり、金融機関からの委任者あて電話による意思確認を了承することが必要となるのです。

委任及び任意後見契約の委任契約は、契約締結時に委任者の意思能力があったこと、その委任者が代理人手続きを希望していたことを明示しているだけであり、一般の代理人手続きの申込みと何ら変わることがないからです。

中には金融機関に食って掛かったり、アドバイスを受けた公証人に泣きつく方もいらっしゃるようですが、本人の意思能力があることが前提の委任契約である以上、あとは金融機関の通常の代理人手続きに則って対応して頂く以外に方法はありません。

また、代理人手続きを行う中で、金融機関から委任者の意思確認を求められているにも関わらずそれを拒絶した場合は、金融機関から本人はすでに意思確認が出来ない状態にある、とみなされ、対応してもらうことが難しくなる可能性もあります。

作成した公証人や弁護士に相談したとしても、金融機関が通常の代理人手続きとして規定されている手続きを求めているにも関わらず、それを省略して委任及び任意後見契約公正証書のみを以って金融機関に手続きを求める事は、金融機関に対して通常の手続きを無視して特別の手続きを求めることと同義であり、覆すことはまず難しいでしょう。

ここに一般の法律家と、実務経験のある法律家との認識の違いが出てきます。

委任及び任意後見契約(移行型任意後見契約)の活用を考える場合は、先ずはその実務に精通した行政書士等に相談し、委任及び任意後見契約が最善の方法であるか検討して貰うこと、既に委任及び任意後見契約を締結している場合は金融機関との対応の間に入って貰うことも、スムーズな運用に繋がる方法の1つであると思います。