介護費用を支払う時の考え方

親が認知症等になってしまい、急に入院費の支払が必要となった場合の支払方法について考えてみます。

子が自分の手元資金から支払う場合もありますし、親の口座から払出を行う場合もあります。支払を受ける側にとっては違いはないのですが、支払う側にとっては後々思わぬ影響が生ずることがあります。

以下で、子が今まで確定申告で親にかかった医療費を医療費控除として申告していた場合(親と生計を一にしていた場合)と、子が親の確定申告に一切関わっていなかった場合(子の確定申告で親の医療費を医療費控除として申告していなかった場合、いわゆる生計を一にしていなかった場合)に分けて考えて行きます。

1.親と生計を一にしていない場合

親と生計を一にしている、とは「常に子が親の生活費や療養費を負担している」場合です。

生計を一にしていないとは「常には子が親の生活費や医療費を負担していない」場合です。

いわば、親が一人暮らしで毎年の確定申告を自分で行い、医療費控除も自分で行っている場合等は生計を一にしていないと言えるでしょう。

このようなケースで子が親の入院費等の立替を行った場合、領収書や記録など、子が立替払いを行ったことを証明できる書類等を残しておくことで、将来相続が発生したときに「負の相続財産」として親の財産から立替分を回収することが出来ます。

無論、親が生きている間は、立替分として清算して頂くことも可能です。

しかし、立替払いを行って、都度清算して貰っていても、親の認知症等が進行し、意思表示も筆記も出来なくなったら預金の払出は出来なくなります。

この場合も、領収書等立替払いを行っている事を証明できる書類のある事が大切になります。金融機関に対して親の預金から清算を求める権利を持っている事を証する書類となるからです。

親の相続が開始するまで立替を継続できるなら相続手続きを待って清算すればいいのですが、立替金額は大抵どんどん増えて行きます。

親の相続開始前に、法定後見人を選任して清算して貰う方法もありますが、後見人を選任した場合、以降は後見人への管理手数料が、原則被相続人である親が亡くなるまで発生し続けます。

立替費用の清算だけなら、領収書等の書類を使って金融機関と払出の相談を行うことをお勧めします。

2.親と生計を一にしている場合

親と生計を一にしている場合は、おそらく毎年の確定申告で親の医療費を医療費控除の対象としていると思います。入院費も同様、医療費控除の対象となります。従って全て子の懐から支払われる費用となりますので、立替という考え方はとられません。

相続が発生した場合も「負の相続財産」とはなりません。遺産分割協議において「寄与分」として、支払った医療費を加味した相続財産を頂きたい旨を他の相続人と交渉する必要があります。

3.親としてとれる対策

高齢となった親が入院した場合、症状が急変し、親族の対応が後手に回ってしまうことが多くあります。とりあえず支払っておく、という事も当然発生します。

人は誰でも齢をとり、形はどうあれ、いつかは状況が自分では儘ならなくなります。

子と生計を一にしていようといまいと、将来かかる医療費程度は贈与税の非課税枠を利用して子に渡しておく方が無難でしょう。

親の名義の預金では意思表示が出来なくなった場合に払出できなくなります。身体が動く間は、あるいは話が出来る間は、等と考えて何ら対策をしないまま認知症に至ってしまう方が多い様ですが、対策をとっていた場合と、とっていなかった場合では子への負担の大きさは雲泥の差となります。

具体的には少しづつでも毎年、子に資産を渡しておくことをお勧めします。現在の税法では受け取る側において年110万円までの贈与は非課税となります。また一定の金額以上の医療費がかかった場合は高額医療費として申請することで、一定額以上の支払額を還付して貰えます。

幾らが適切かは一概に言えませんが、

①合計100万円程度は数年かけて子に渡して管理してもらう

②万一の場合はそのお金から入院費を出してもらい、健康保険制度の高額医療費の申請を行って貰う

③子には必ず領収書を保管しておく様に指示しておく

以上の3点を子と話し合っておくだけでも、万一のときの対策として相応の効果が期待できます。

生命保険などを利用する方法もありますが、いざという時に支払要件に該当しているか否かは誰にも予測出来ません。不確実な将来に対してある程度柔軟な対応が出来るカードを子に持たせておくことが一番必要なのです。

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