個人事業主の相続が発生した場合、ポイントとなるのは「小規模企業共済」「事業用不動産」「事業性預金」の取り扱いです。
ここでは各々の取り扱いを検討する際のポイントをお伝えします。
被相続人の中には「小規模企業共済」を行っていた方も多いと思います。
そのようなケースでは、被相続人の死亡で廃業する場合もある一方、例えば相続人の配偶者が事業を継承する場合もあると思います。先ず知っておくべきことは、「小規模企業共済」は「共済金A」、即ち個人事業主の死亡を事由として受け取る等のケースが一番運用効果が高いことです。
「小規模企業共済」は「承継通算」、即ち個人事業主の配偶者や子が事業を全部一人で継承する事も可能です。但し原則、継承者は「配偶者か子」に限られます。従って「相続人以外の方」が「承継通算」することは困難です。「相続人以外の方」が事業承継する場合、一般的には「共済金A」の事由で請求を行うことをお勧めします。
次に「事業用不動産」についてです。
被相続人の中には、自宅を仕事場として事業を行っていた方も多いと思います。仮に「配偶者や子」が事業を全部一人で継承する場合は「小規模宅地等の特例」を使って敷地の相続税評価額を最大50%引き下げる方法もあります。活用の検討をお勧めします。但し、相続人以外の方が事業を引継ぐ場合は活用出来ませんし、逆に相続税額が加算される場合もあります。
「配偶者に対する相続税額の軽減」を利用して、配偶者(妻)に相続させる方法をとる方も多いですが、次に配偶者(妻)の相続が発生した場合は「配偶者に対する相続税額の軽減」は使えませんし、場合によっては亡き父の相続税額と亡き母の相続税額を合算したらこんなに相続税額が多くなっていたのか等ということもあります。むしろ二次相続(配偶者死亡時の相続)も考えて、子が「小規模宅地等の特例」等の利用を検討することをお勧めします。
被相続人亡き後の配偶者(妻)の住まいは「配偶者居住権」の利用を行うことで確保できますし、自宅を相続した子の不動産に対する評価額も、軽減される可能性があります。
どの制度も全部一人で承継することが条件となりますが、承継しない相続人に対しては不動産の代わりに「小規模企業共済」の共済金を相続させる方法もあるでしょう。
最後に「事業性預金」です。個人事業主の場合、事業性預金の名義を「○○屋 〇山〇太郎」等にして利用している場合も多いことと思いますが、この場合も個人「〇山〇太郎」様の相続財産となります。原則、「〇山〇二郎」様が事業を承継しても名義変更して使用することは出来ません。新たに「〇山〇二郎」様名義の預金を作成する必要があります。
以上の点は税理士の方とご相談頂く必要がありますが、ご相談は相続を専門とする税理士の方にされる事をお勧めします。「配偶者居住権」や「小規模宅地等の特例」は一般の税理士の方が詳しいとは限らないからです。セカンドオピニオンとして相談される事も可能です。
相続が発生した場合、その時の相続税が一番安く済む方法や、一番全員の同意が取りやすい方法を選択するケースが目立ちますが、先ずは落ち着いて将来も見据えて考えることをお勧めします。相続手続きはやり直しがきくものではありませんから。
なお、遺言書があっても、相続人全員の同意を以って遺言書とは異なる遺産分割協議書を作成することで相続人全員の意に沿う相続手続きを行うことも可能です。