片親が亡くなって、残されたのはもう一人の片親と自分の兄(弟)、というケースはよく見かけます。そして残った親が亡くなった後、仲が良かった兄(弟)との縁が切れた、というケースも耳にすることがあります。
これは兄弟がそれぞれ結婚している場合に見られがちです。片親が存命の間は、兄弟は親を軸にまとまります。残された親は兄弟にとって大切にしたい共通の人ですから。
相続財産についても、大方の兄弟は亡くなった父(母)の財産は取り残された母(父)に相続させることでまとまることが多いです。悪い事ではありません。
しかし、問題は残された片親が亡くなった時です。
両親が亡くなったあとは、それぞれの兄弟にとって一番大切な人は、自分の配偶者や子になります。家族が内の人であり、兄弟は外の人となります。大切にしたい共通の人がいなくなるとどうしても意見がまとまりにくくなり、結果遺産分割において仲違いしてしまうことがあります。
一旦お互いの主張を抑えて、親の財産(不動産など)を共有にする兄弟も多いですが、時間が経つと将来の取扱いについての意見が合わなくなって、結局売却して遺産分割せざるを得なくなり、最悪、遺産分割後は兄弟の縁が切れてしまうこともあります。
両親亡き後、兄弟で円満に取り扱うに当たっては、お互いに相当の努力が必要となることは、覚悟しておく必要があると思います。
こうした問題を回避するには、片親が存命中に、片親と兄弟が話し合って、両親亡き後の財産をどうするかも考えて、遺産分割を行うことが必要なのではないかと思います。具体的には片親が相続するのは現預金のみとして、他の不動産などは子に相続して貰う等の方法です。
相続財産の基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の人数です。仮に片親と子2名が相続人である場合は4,800万円が基礎控除額となります。
よく、配偶者に対する相続財産の軽減制度を利用してすれば、配偶者の相続する財産は1億6,000万円まで非課税となるのだから、残された片親の相続財産はなるべく多くした方が良い、と考える方も多い様ですが、それは問題の先送りです。
両親亡き後、子2名の非課税枠は4,200万円になります。仮に残された片親が全ての財産を相続し、その金額が1億円だったとします。そしてそのまま1億円の財産が残っていたとすれば、単なる納税の先送りです。仮に相続財産が4,000万円だったとしても、こんどは兄弟だけで遺産分割協議を行うわけですから、前述した仲違いに発展する可能性は十分あります。
むしろ片親が存命中に、将来兄弟がどうあって欲しいかも踏まえて、遺産分割について話し合った方が、そして出来れば片親が存命中に、親子了承の上で、現預金以外の財産を子に相続して貰った方が、遥かに争いが少ないのではないかと思います。
例えば、実家の土地建物の名義は子の一人としても、家屋に配偶者居住権登記を行えば、親の存命中は居住権が認められますし、子の相続する不動産の評価額も低く抑える事ができます。
その代わり、実家を相続しない子には、代償として実家を相続する子から幾らかの現預金を支払うとか、実家を相続する子が相続を契機に親と同居を始めるとか、考えられる方法は多くあります。むしろ残された片親の将来の生活と、両親亡き後の将来も考えた相続を、親の希望も聞きながら共に話し合うことの出来る絶好の機会なのです。
親もまだ元気なので、とりあえず残された片親に全て相続させる。この「とりあえず」という考えはなるべくしない方が宜しいのではないか、と思います。