委任及び任意後見契約活用の留意点・法律家の主張をうのみにしてしまう危険性

委任及び任意後見契約(移行型任意後見)は意思能力が認められる期間は委任契約として、認知症等が発症し意思能力が認められなくなってからは任意後見契約として利用できる制度です。

公証人や弁護士等の方による啓蒙も進み、昨今活用される方も増えてきましたが、他方その活用を啓蒙する公証人や弁護士の方々の中には必ずしもその実務に精通されているとは言えない方もいらっしゃる様です。

ここでは実際の現場における委任及び任意後見契約の位置付けを説明します。

先ず、皆様にご認識頂きたいのは、『委任及び任意後見契約があれば、意思能力が確認できる間は代理権が証明できるので、金融機関の窓口で委任及び任意後見契約公正証書を提示すれば手続きは出来る』と説明する公証人等の方は、法律論には精通しているが実務上の手続きは行ったことがない方が多い、という事です。

確かに委任及び任意後見契約により、委任者から受任者への代理権委任は証明できます。

しかし、委任及び任意後見契約の効果はそこまでなのです。

委任及び任意後見契約を受けた金融機関はこのように考えます。

「本人は意思能力がある。従って受任者は委任者から代理権を受任している。ならば当行の代理人手続きの手順に沿って対応すれば良い」

ここで法律家の方々が勘違いされるのは委任及び任意後見契約公正証書があれば、それだけで手続きが完了すると誤解されている点です。

銀行窓口で代理人手続きを取ったことがある方はお分かりになると思いますが、金融機関によっては委任状を持参しても金融機関独自の委任状を求められることもありますし、名義人本人に電話で意思確認を求められることもあります。昨今は、今後の代理人手続きに係る依頼書を求める金融機関もある様です。

すなわち代理人手続きの方法は各金融機関各々が決めており、統一されている訳ではないのです。

金融機関としては委任及び任意後見契約公正証書を持参しても、それは代理人が来店した、というだけの話で、あとは各々の金融機関の定める代理人手続きに乗せるだけの話です。

従って受任者は各金融機関の手続きに従って、委任者と共に別途個別の委任状を提出したり、金融機関が規定する依頼書を記入したり、金融機関からの委任者あて電話による意思確認を了承することが必要となるのです。

委任及び任意後見契約の委任契約は、契約締結時に委任者の意思能力があったこと、その委任者が代理人手続きを希望していたことを明示しているだけであり、一般の代理人手続きの申込みと何ら変わることがないからです。

中には金融機関に食って掛かったり、アドバイスを受けた公証人に泣きつく方もいらっしゃるようですが、本人の意思能力があることが前提の委任契約である以上、あとは金融機関の通常の代理人手続きに則って対応して頂く以外に方法はありません。

また、代理人手続きを行う中で、金融機関から委任者の意思確認を求められているにも関わらずそれを拒絶した場合は、金融機関から本人はすでに意思確認が出来ない状態にある、とみなされ、対応してもらうことが難しくなる可能性もあります。

作成した公証人や弁護士に相談したとしても、金融機関が通常の代理人手続きとして規定されている手続きを求めているにも関わらず、それを省略して委任及び任意後見契約公正証書のみを以って金融機関に手続きを求める事は、金融機関に対して通常の手続きを無視して特別の手続きを求めることと同義であり、覆すことはまず難しいでしょう。

ここに一般の法律家と、実務経験のある法律家との認識の違いが出てきます。

委任及び任意後見契約(移行型任意後見契約)の活用を考える場合は、先ずはその実務に精通した行政書士等に相談し、委任及び任意後見契約が最善の方法であるか検討して貰うこと、既に委任及び任意後見契約を締結している場合は金融機関との対応の間に入って貰うことも、スムーズな運用に繋がる方法の1つであると思います。

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