相続預金の払い出し 仮払い制度とその課題

「相続手続きには時間がかかる。でも急ぎの支払がある」

このような時、司法書士や弁護士の先生から仮払い制度を紹介される場合もありますが、その内容を十分ご理解頂いている先生は少ないようです。ここでは仮払い制度の利用を考える場合の留意点をご紹介します。

第1講 相続預金の仮払い制度とは

 相続預金の仮払い制度とは平成30年の相続税法改正によりできた制度で、各相続人が1つの銀行で150万円を限度に被相続人(「亡くなった方」)の預金を単独で払い出しできる制度です。

それまで家庭裁判所に預金の仮分割の仮処分を申し立てなければ単独での払出は出来なかった事を考えれば、相続人が単独で、家庭裁判所への申立も不要という点で便利な制度のように見えますが、利用にあたっては考えておくべき課題があります。

第2講 利用上の課題

1つは、支払可能額です。支払上限は相続人一人に対して各行150万円ですが、これはあくまで上限です。正確には下記の通りとなります。

●仮払い可能額の算出方法

①その銀行にある被相続人の預金残高×1/3×申出人である相続人の法定相続分

②上限150万円

上記①、②のうちいずれか少ない金額

具体的な金額で考えてみます。仮にA行にある被相続人の預金残高が150万円、相続人は配偶者と子の計2名とします。この場合、法定相続分は配偶者1/2、子1/2です。子が仮払いを希望したとすると、

①A行残高150万円×1/3×子の法定相続分1/2=25万円

②上限150万円

となり、仮払い可能額は25万円にしかなりません。

150万円を利用したいなら、

900万円×1/3×1/2=150万円となる事から、900万円以上の預金残高がある銀行1先に申し込むか、残高900万円未満の銀行数先に申し込みを行う必要があります。

つまり「利用に当たっては各行の残高と支払可能額を確認してからでないと必要額を確保できない可能性がある」ということです。

第3講 手続き上の課題

もう1つは、仮払い制度を利用するには相続人である事を証明する必要があるという事です。

証明には最低でも被相続人の方が生まれてから亡くなるまでの一連の戸籍が必要となります。銀行によってはその他に保管制度遺言や公正証書遺言がない事の証明等を要求する場合もあります。

つまり「利用にあたっては実際の相続手続きと同程度の事務負担があると考えた方が良い」ということです。

終講 まとめ

以上の通り、仮払い可能額や手続き上の負担を考えると、相続人の人数や状況次第では、相続手続きに入り、相続人全員の同意の下、代表相続人の口座に入金依頼を行った方が楽だったという場合もあります。

相続人全員の了解を得られているが、全員の署名捺印や一連の戸籍の取得に時間がかかる等の事情がある場合に限りますが、少額預金の場合は銀行によって、例えば申出人が配偶者や子である事を以下の書類で証明できれば、申出人1名のみの手続きで解約手続きが可能な所もあります。

①亡くなった方の死亡日の記載のある戸籍謄本

②申出人との続柄が分る戸籍謄本

 申出人が亡くなった方の子なら、申出人の戸籍謄本を取れば父母の欄に亡くなった方のお名前が載っています。申出人が配偶者なら上記①の戸籍にご自身のお名前が載っています。

以上の戸籍があれば第1順位の相続人であることが確認できますので銀行への相談には問題ありません。

 少額預金の取扱金額は各行まちまちですが、残高が50万円から100万円程度なら少額預金として対応頂ける銀行もあります。

 無論、他の法定相続人に断りもなく行ったとなりますと、禍根を残すことにもなりますし、最悪裁判沙汰になる可能性もあります。先ずは他の相続人の皆様と相談されて、同意を得た上で、直接銀行あて連絡し、ご事情等をお話し頂くと共に、出来るだけ簡単な手続きを希望される事をご相談頂くことをお勧めします。