親が作った子供名義の預金を、子供に引き渡すときの注意点

親御さんがお子様名義の口座を作られて、将来の教育資金等の預け入れを行うことは現在でも行われています。

お子様が18歳を迎え、成人となったのを契機に印鑑と通帳を引渡し、以降は自分の預金として管理させることは、重要な教育の一つです。

ただ、ここで注意頂きたいのは通帳等の管理です。

マネーロンダリング等不正取引の防止が求められる今日、本人への通帳及び印鑑の引渡しを怠ると思わぬ手間がかかる事があります。

第1講 本人への引渡しが済んでいない場合

もしお子様が18歳を過ぎているのに通帳、印鑑の引渡しが終わっていない場合は、速やかに引き渡すことをお勧めします。

現代社会はマネーロンダリング、すなわち不正取引に対する目が非常に厳しくなっています。

仮にAさんがBさん名義の口座を保有しており、それを金融機関が知った場合は、Aさんは借名取引、つまり本人以外の人の名前を使って取引をしている疑わしい先とみなされてしまう可能性があります。

マネーロンダリング等の言葉が、まだ世の中に出てきていない頃に口座を作った方は、たかが成人した子供の預金をもっているだけ、とお考えがちです。

しかし、今、世の中で行われている不正取引は、犯罪者が自分以外の名義の口座を使用して行われているのです。親が自分の名前ではない、子供の口座を持っていることは、表面上は、犯罪者が行っている行為と違いはありません。

もし、親が子供名義の預金通帳を持って、金融機関の窓口で「この口座は本当は自分の口座だ」と言って払出を行おうとしたなら、金融機関は立場上、第三者名義預金を保有し、払戻に来た人物(マネーロンダリングの疑いあり)として扱う事となります。

また、仮に不幸にも親が通帳や印鑑を保有したまま亡くなったとしたら、子供名義の口座は、税務署も亡くなった親の財産として相続税の対象とみなす可能性があります。

子のために積み立てた預金である以上は、子が成人した場合、速やかに通帳と印鑑を引渡し、子自身が金融機関に連絡し届出をしている筆跡を変更しておく必要があるのです。

第2講 引き渡しが終わり、喪失しているものもないとき

成人後、本人に管理を任せ、通帳や印鑑が本人の手元にあるなら問題はありません。

通常は本人が印鑑と通帳を本人確認書類と共に金融機関に持参すれば、本人確認書類で本人であることが認識され、通帳持参によって金融機関の預金管理データが本人が預けているという事実が一致し、印鑑によって本人が管理している事が確認されます。窓口に持参したときは今後の取引に支障が出ないように、金融機関に登録してある筆跡を親のものから自身のものに替えておくことを忘れないようにして下さい。

第3講 引き渡しが終わっているが、喪失しているものがあるとき

問題は印鑑や通帳が手元にない場合です。

本人に管理が移り、届出の筆跡が本人のものと変更された後なら良いのですが、通帳や印鑑がなく、筆跡も親のままの場合は、名義人の本人確認だけでは済みません。

具体的には、当初の筆跡が本人のものでないとの理由で、当初お届を頂いた方(親)から、「この預金は子に引渡し済みであること」を称する書類の提出を求められる可能性があります。

終講 まとめ

万一、当初の預金作成者である親が既に亡くなっている場合や、認知症になっている場合、手続きは更に複雑になります。

具体的には、親が亡くなっている場合は相続手続きが求められますし、認知症になっている場合も相続手続きに準じた手続きが求められます。

子のために子供名義で作った預金がありましたら、成人後は速やかに本人の管理に移し、届出の署名を差し替える事をお勧めします。なお、その際は印鑑、通帳等の保管にくれぐれもご留意ください。

確定拠出年金・意外と知らないマッチング拠出とライフプラン拠出の違い

最近、確定拠出年金制度が改正され、企業型確定拠出年金を行っている方も、個人型確定拠出年金を行う事が出来るようになりました。しかし、ここで突き当たる壁がマッチング拠出です。

マッチング拠出がされている場合、企業型確定拠出年金と個人型確定拠出年金は一緒に積み立てることはできません。

他方、企業型確定拠出年金を行っている企業の中にはライフプラン拠出という方法をとっている企業もあります。ライフプラン拠出がされている場合は企業型確定拠出年金を積み立てている間でも個人型確定拠出年金の開設が出来ます。

同じ拠出金なのに何故このような違いがあるのでしょうか?

この違いはマッチング拠出は従業員拠出、ライフプラン拠出は企業拠出であることによります。既に従業員が拠出しているマッチング拠出の場合は、、個人の拠出を二重に出来ないという点で、個人型確定拠出年金を開設出来ないのです。

一見、共に拠出金控除後の金額が給与として支払われますので同じ様に見えますが、意外な相違点があります。それは額面給与への影響と社会保険料への影響です。

マッチング拠出=従業員拠出の場合は、先ず額面通りの給与を受け取った後に、従業員の給与から確定拠出が行われます。給与からの支払が前提ですので従業員の受け取る額面給与は拠出を行っても影響はありません。社会保険料は額面給与に基づいて計算されるので積み立てをしても、しなくても、負担する社会保険料は変わらないことになります。

ライフプラン拠出=企業拠出の場合は、事前に給与の中にライフプラン給付金という枠を設け、給与として支給できるものの、もし従業員が希望すれば、ライフプラン給付金を上限に、従業員が希望した金額を拠出金として差し引き、拠出金を控除した金額を給与として支払うという制度です。拠出する分、額面給与が減るため、拠出額が大きくなればその分社会保険料は減少します。

負担する社会保険料が減れば、その分手取りは増える事となりますが、社会保険料は将来の厚生年金の計算基礎となります。計算基礎が減れば、将来の厚生年金は少なくなる可能性があります。

なお、税金への影響ですが、従業員拠出の場合、拠出金は小規模企業共済掛金控除として年末調整時に所得金額から控除してもらう事が必要です。

企業拠出の場合、拠出金は企業が福利厚生費として処理しますので、年末調整時の手続きは必要ありません。

いずれの場合も所得から控除されますので、両者の違いは少ないと言えます。

給与金額にもよりますので一概には言えませんが、理論上はライフプラン拠出の場合、ライフプラン給付金を確定拠出に回す分、額面給与は減り、厚生年金の計算基礎を減らすことになるので、確定拠出年金は増えるが厚生年金は減る可能性が出てきます。

この場合、ライフプラン給付金を給与として貰い、個人型確定拠出年金を別途開設し、給与の中から個人型確定拠出年金を積み立てることで厚生年金が減少する可能性を削減することもできます(但し、個人型確定拠出年金の場合、年間の管理手数料等が別途発生しますし、企業型と併用する場合は個人型の積立限度額が小さくなる等、運用損益や運用条件を踏まえて考える必要があります)。

昨今、社会保険制度は日々時代に合った制度へと改善されています。ご自身の勤務条件等をご確認頂き、或いはFP等にご相談頂き、ライフプランに合った積み立てを選ばれることをお勧めします。

定年後の住宅ローンをどうするか

「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」により、定年年齢を65歳未満と定めている事業主は、①定年制の廃止、②65歳までの定年の引き上げ、③65歳までの継続雇用制度の導入、のいずれかの措置を講ずることが必要となりました。現在は多くの企業で継続雇用制度が導入されています。

しかし、継続雇用制度を利用しても、60歳以降の賃金は大幅に下がり、これからの生活をどうしようと考えられるサラリーマンの方が大部分ではないでしょうか。特に60歳時点で住宅ローンを抱えておられる方にとっては頭の痛い事と思います。

一般論では退職金で住宅ローンの残債を一括返済することが推奨されていますが、今後の生活を考えるとそう簡単に決断もできないことと思います。

その様な場合にリバースモーゲージによる借り換えを利用する、という考え方もあります。リバースモーゲージとは自宅を担保に借入を行い、生前は借入元本を返済することなく自宅に住み続け、死後に自宅を売却する等して借入元本を返済する制度です。

例えば住宅金融支援機構が提供している「リ・バース60」の場合、既存の住宅ローンの残高および借換費用等も対象とされ、債務者および連帯債務者が満60歳以上の場合なら、住宅および土地の担保評価額×50%または60%、かつ8000万円以下で、既存の住宅ローン残高以内を融資限度としています。

メリットとしては、①元本返済は死後に行うため、月々の返済が利息部分だけに抑えられる、②自宅に住み続けられ、借り入れた本人の死後も配偶者が連帯債務者である場合、配偶者も引き続き居住できる、③返済方法は死後自宅を売却等するか、生前に現金による繰上返済もできる、等が挙げられます。

注意点としては、①融資限度額が定期的に見直され不動産価額が下落し、借入残高が限度額を上回った場合、差額を返済するか、金利を引き上げられる可能性がある、②借入限度額が担保評価額次第であること、特に債務者および連帯債務者が満50歳以上満60歳未満である場合は担保評価額×30%が上限とされてしまう、③契約に当たって推定相続人全員の合意が必要、等が挙げられます。

但し、不動産価額の下落で死後の売却後、残債が残った場合でも「ノンリコース型」にしておけば相続人に残債の返済義務は残りませんし、年齢による担保評価額の問題も、本人が60歳以上で単独債務者として契約すればクリアできる可能性もあります(その場合契約者の死後、配偶者が契約を引き継ぐ必要があり、再度審査が必要となりますので、配偶者が60歳以上となったら連帯債務者として変更契約が可能となるのか等、事前に金融機関とよく相談しておく必要があります)。

なお、既存の住宅ローンについては直近12か月分の返済が遅滞なく行われていることが条件となることは言うまでもありません。

収入確認書類としては、

給与所得者、年金受給者:源泉徴収票等

個人事業主等:確定申告書等

同族会社役員:法人税の確定申告書等

年金未受給者:ねんきん定期便等

が求められます。

借入限度額の目安となる担保評価額を検討するに当たっては、毎年支払われてる固定資産税納税通知書に記載している固定資産税評価額が参考となります。固定資産税評価額は公示価格の70%で評価されており、公示価格は、一般の土地の取引価格の指標となっているからです。つまり固定資産税評価額÷70%がその土地の公示価格と判断できるのです。

将来の見通しに不安があるという場合、一旦、リバースモーゲージによる借り換えを導入して家計の資金繰りを安定させた後、再雇用や再就職後の環境を判断し、環境に合わせて少しづつ繰上返済を行ってゆくのも1つの方法ではないか、と思います。

定年を迎えられると、周りの環境は一変する一方、住宅ローンの返済は今まで通りにやって来て、どうしていいか分からなくなることもあるかも知れません。でもだからと言って立ち止まってしまわれる事はお勧めできません。まずは社会保険制度、金融制度、金融商品等、あらゆる方法を検討してみてください。ここではリバースモーゲージを紹介しましたが、10人の方がいらっしゃれば10通りの答えがあります。冷静にご自分の状況を整理して、出来る事を一つづつ積み重ねて行かれることをお勧めします。

法定相続人 意外と知らない民法と相続税法の違い

相続税の非課税限度額は法定相続人の数が多いほど大きくなります。

ならば養子を増やせばその分法定相続人が増えて非課税限度額も多くなるから相続税を免れることが出来るのでは?このような理由から養子縁組を考える方もいらっしゃるようです。

相続税法上、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で算出されるのが相続税法上の非課税限度額です。法定相続人が配偶者と子2名の場合、3,000万円+600万円×3=4,800万円となります。

では、法定相続人が配偶者と子2名で相続財産が6,000万円の場合、養子を2名とったらどうなるでしょう?法定相続人の数は5名となります。非課税限度額は3,000万円+600万円×5=6,000万円となり、相続税はかからないのでしょうか?

相続税法上、法定相続人の数に加算される養子の数は次のように定められています。

・実子(自分の子)があるとき、又は実子がなく養子が1名のとき・・・1名

・実子がなく養子が2名以上であるとき            ・・・2名

つまり配偶者と子2名がいる場合、仮に養子を2名とったとしても、実子がある場合に該当し、税法上加算されるのは1名となり、法定相続人は4名、非課税限度額は5,400万円となります。

他方、養子にも民法上の法定相続分はありますので、法定相続分に従った遺産を請求される可能性があります。仮に遺言書で養子に残す遺産を0にしても、遺留分侵害額請求権(最低限の遺産を受ける権利)が行使されれば法定相続分×1/2の遺産を渡さなければならなくなる可能性もあります。

同じ「養子」や「法定相続人」という言葉を使っていても民法と相続税法では取扱いが異なる場合があります。万一、相続税の削減を目的に養子をとられることをお考えなら、ご注意頂くことをお勧めします。