資産運用の基本・なぜドル建てが目立つのか?

新聞やTVを見ると、やたらドルに関わるニュースが目に付くのではないでしょうか?

世の中の通貨はドルだけではありません。銀行窓口にはユーロや豪ドル建ての投資信託がありますし、通貨ではイギリスのポンドもあります。

最近では元による金融商品も出てきています。

でも石油と言えば1バレル〇〇ドルですし、為替相場と言えば1ドル〇〇円なのです。

決済額が多いからでしょうか?

世界で決済される通貨額の4強と言えば、一般的には米ドル、ユーロ、円、英ポンドが挙げられます。近年、元も決済額が増加して来ました。

現在の各通貨による決済シェアは、概ね米ドル40%、ユーロ35%、英ポンド6%、円・元が各3%という所です。

また、基軸通貨という考え方もあります。ちなみに基軸通貨とは国際貿易決済や金融取引時の基準となる通貨です。一般的には米ドルとユーロを指します。

米ドルとユーロが各々決済の約4割を占めているなら、もっとユーロに注目が集まっても良い様にも考えられます。

しかし、日本で基軸通貨と言えばやはり米ドルなのです。

理由としては以下の3つが考えられます。

1つ目は、各国の外貨準備高に占めるドルの割合です。外貨準備高とは輸入代金の決済や対外債務の返済の為、各国政府が保有している外貨です。その合計の割合をみると米ドルが約60%、ユーロが約24%、円が約4%を占めています。日本の外貨準備高においても例外ではありません。

2つ目は、ドルが石油売買において決済通貨として扱われている事です。これはあくまで慣習上の扱いで法的に決められている訳ではありません。しかし、長年の信用力と利便性に基づき現在も国際的な石油売買の決済通貨として扱われています。

最後に、これは特に日本の銀行において言える事ですが、外貨を購入する場合は基本的に一旦米ドルを経由して外貨購入せざるを得ない事です。

例えば銀行で円をスイスフランやカナダドルやクローネに換金するとします。その場合、銀行は預かった円で先ず米ドルを購入し、その米ドルを使って市場からスイスフラン、カナダドル、クローネ等を購入するのです。これは先に記したように金融取引時の基準通貨が米ドルとなること、及び歴史的にも前後日本の主要貿易国がアメリカだった故に、決済の合理性の観点から米ドルを経由する決済システムが構築され、現在に至っていることが要因として考えられます。

つまり日本は輸入決済において米ドルを主力とし、特にエネルギー輸入においては米ドルをベースとし、かつ金融決済においてもドル経由で行っていることから、必然的に新聞やTVでもドルに関わる話が多く取り上げられることとなるのです。

これは資産運用を考える上でも重要なことです。国内で、円預金で運用していても、株式や債券で運用していても米ドルの影響から外れることはないのです。ドル以外の通貨で運用する場合も、少なくとも購入や円転の際は米ドルの影響を受けます。

一般に資産運用を開始するとき、金融機関は皆さんに為替リスクの説明を行います。それを聞いた方の中には為替リスクを避けるべく円預金に全てを預ける方もいらっしゃるかも知れません。しかし運用する以上、米ドルの為替リスクは不可避なのです。

資産運用をなさる方にはその点を踏まえて、今まで以上に新聞やTVなどを通じて米国の情報に着目して頂きたいと思います。

ご家族のために・認知症への対策/任意後見制度

第1講 高齢者の抱える認知症のリスク

 ご高齢者の中には、ご自身が亡くなった後の事を考え、ご家族のために遺言書のご用意等を行っている方も多い事と思います。

 しかし、現実にはご自身がいなくなってしまうのは「死」からではありません。

ご不快に思われる方も多い事は承知で、あえて申し上げますが、現在の日本社会において、ご自身がいなくなってしまわれるのは「認知症の発症」からなのです。

 現在の日本社会で暮らすには、本人の意思確認は原則絶対必要条件です。預金の開設・払出・解約、施設入居、不動産の処分・賃貸借、物品の購入等、日常生活に関わるものは全て本人の意思確認が必要となっています。認知症、すなわち本人の意思確認が出来なくなった途端、これらの日常生活は原則全て停止します。

 ご本人名義の預金からの払出で生活費を支払っていたなら、その後の支払が出来なくなります。ご本人名義の賃貸不動産があれば、賃貸借契約も、修繕も出来なくなります。ご家族が本人のために車いすを購入しよう考えても、本人名義の口座から払出は出来ません。その結果、ご家族はご本人の生活費や、車いすの購入費用を、ご家族名義の口座から立て替え払いせざるを得なくなります。仮に賃貸不動産をご本人の生活の糧として活用していた場合、修繕も出来ず、新たな契約も出来なくなります。

第2講 認知症となったときの対策

 認知症が発症した後の対策としては、法定後年人を立てる方法があります。

 家庭裁判所に法定後見開始の申請を行い、家庭裁判所が選任した法定後見人に、本人の財産管理と身上監護に係る法律行為を行って貰うのです。法定後見人なら預金の払出も、賃貸不動産の賃貸借契約も本人に代わって行うことが出来ます。

 しかし、法定後見を行うに当たっては、以下の2つの事項を認識しておく必要があります。

① 時間と費用がかかること

 法定後見開始の申立には相当の費用と時間がかかる上、後見が開始すると本人の意思能力が回復するまで、やめることは出来ません。高齢者の場合、亡くなるまで続くことが大半です。

まず、医師の鑑定を経た後、家庭裁判所に申立を行うため鑑定費用に約5万円、申立費用に約1万円、専門家への手続き依頼費用で約10~15万円、手続き完了まで3~4か月はかかります。

更に保有する資産額によっては第三者の後見人と後見監督人が付けられ、その方々に毎月1~3万円×2の手数料を、本人が亡くなるまで払い続ける必要があります。仮に手数料が月3万円×2として亡くなるまで10年かかったら720万円の費用が必要となります。

②後見人を指名できないこと

後見人の仕事は大きく分けると①財産管理及び身上監護に係る法律行為、②家庭裁判所への定期報告、の2つです。万一、後見人が財産の不適切な管理を行っていると判断された場合、家庭裁判所により後見人を解任される上、損害賠償請求が行われる恐れもあります。

そのため後見人によっては、何処に出しても問題とされない安全第一の資産管理を最優先される方もゼロではなく、必ずしも家族の希望に沿って資産を活用して貰えない場合もあります。

法定後見人は家庭裁判所が選任しますので、原則、誰が法定後見人になるか申立人は選べません。また選任後は、法定後見人に不満でも不服申立は出来ません。

法定後見人と介護を行う家族との考え方が一致しない場合、時に介護にとって障害となる場合もありえます。

銀行預金については別稿「親が認知症である場合に、親の預金を払い出して介護費用に使うための金融機関との交渉」で記載させて頂きました通り、後見人を選任しないで対応する方法もない事はありません。が、対応できる範囲に限界があることや、介護する方の時間と体力、ストレス等を考えると、率先してお勧めは出来ません。

本人が認知症を発症する以前なら、もっと有効な方法を準備しておくことが可能です。

第3講 移行型任意後見の選択

第2講で法定後見を説明しましたが、後見制度には法定後見と任意後見の2つがあります。本人の意思能力が既にない場合は家庭裁判所が後見人を選任する法定後見を行わざるを得ませんが、本人の意思能力がある間は、本人が後見人を選任できる任意後見を行うことが出来ます。

以下、法定後見と比較した場合の、任意後見のメリットを挙げておきます。

メリット1.時間と費用が削減できる

本人が後見人を選任しますので、後見人は家族でも大丈夫です。家族を後見人にした場合、大抵、後見監督人が家庭裁判所により選任されますが、後見人への手数料をゼロにしておけば、任意後見開始までの手数料はゼロ、開始後の手数料も監督人1名分で済みます。

当初費用も公正証書作成時に約5万円、専門家への手続き依頼で5~7万円です。

公正証書作成は2週間程度で出来ますし、後見が必要となった場合も約2か月で監督人選任により後見が開始出来ます。

(なお、任意後見開始申立時は家庭裁判所あて約1万円の費用はかかります)

契約手続きは本人と後見人となる方が公証人立会いの下、公証人役場で行います。万一、公証人役場に行けない場合は、公証人に出張頂くことも可能です。

無論、後見人となった家族が必ずしも法律行為に慣れた方とは限りません。その場合は事前に、後見人が代理人を選任出来る条文を加えておけば、後見人は必要な時に弁護士でも司法書士でも代理人を立てることが出来ます。

メリット2.本人のことをカバーできる範囲が広い

そして法定後見との大きな違いは即効型、将来型、移行型の3種類があることです。

即効型とは、任意後見契約を締結すると速やかに任意後見契約が発効する契約です。

将来型とは、将来認知症が発症したときに、申立てにより速やかに任意後見契約を発効させる契約です。いずれも認知症が発症した場合に家族を後見人とすることのできる対策です。

自分で後見人を選任しておき、自分の意向を伝えておくことが出来るだけでも、認知症発症後のご本人およびご家族の負担は相当軽減できます。

しかし、それだけでは十分ではありません。中には突然認知症が発症する場合もありますが、大抵の方は身体の衰えが進行し、行動範囲が狭くなり、耳が遠くなり、コミュニケーションが取り難くなる、字を書こうにも筆圧が弱くなる等を経て認知症の発症に至る方が多いのではないかと思います。

この健康な状態から認知症に至るまでの期間をカバーできる可能性があるのが移行型任意後見なのです。

移行型任意後見契約とは「委任契約兼任意後見契約」の事を指します。将来後見人になって頂く方に、任意後見発効前は委任契約により、受任者(代理人)として本人の日常の法律行為を行って頂き、認知症発症後は後見契約により、後見人として働いて頂く契約です。

つまり、後見契約発効前は代理人として本人の意向に従った法律行為を単独で行うことが出来ます。

相手方によっては別途本人の意思確認を求められる場合もありますが、任意後見契約書は公証人役場で公正証書として作成しますので、代理人としての信用力はかなり強いものとなります。

万一、認知症が発症しても既に後見契約書は出来上がっていますので、家庭裁判所への後見開始の申立から発効までの期間はかなり短縮できます。

メリット3.本人の意思が反映され易い

そして1番のポイントは、予め契約書に条文を入れておけば、委任契約の発効を本人が希望するときから、とする事が出来ることです。

後見契約は認知症発症が契機となりますので、本人にはどうにもなりませんが、代理人に手続きを任せる委任契約は、契約後に本人の判断でいつから発効させるのかを決定できるのです。

場合によっては後見契約発効まで、委任契約を発効させないこともできます。

本人の意思がある間は全て本人の意思に従って手続きを行えるという点、および認知症発症後は事前に本人の意を汲んだ方を後見人に出来るという点で、移行型任意後見契約はご本人のみならずご家族にも優しい対策と言えます。

終講 まとめ

人間誰しもいつ亡くなるか、いつ認知症になるかは自由に決めることが出来ません。

しかし、人間は法律や社会制度で、自由にならない部分をカバーする手段を備えてきました。

現在の日本の社会制度において、移行型任意後見は健康な状態から認知症に至るまでの期間をカバーできる上、比較的円滑に後見へ移行できる点で、又、本人の意を汲んだ後見人を選任出来る点で、不安なく老後を過ごすための有効な手段の1つと言えるでしょう。

無論、任意後見は万能ではありません。法定後見人に認められている取消権はないですし、任意後見の対象となる法律行為は事前に契約書に明記しておく必要がある等、問題がないことはありません。また、最近は家族信託など資産管理の面では後見制度より対応力が高い可能性のある制度も出てきています。

しかし、どの制度を選ぶかはご本人やご家族が、何を最優先に考えるか、によります。

せめて一人でも多くの方に移行型任意後見契約の有効性を知って頂き、介護と共に発生するご家族への障害を少しでも予防することを考えるための一助として頂ければ幸いです。