生命保険金を渡すときの条件

銀行が生命保険を販売するようになって以来、窓口で資産運用の1つとして生命保険のセールスや生命保険金控除の紹介をされたことのある方は多いと思います。

「500万円×税法上の法定相続人の数」が非課税限度額として全ての相続人が受け取った生命保険金から控除されること、生命保険金は遺産分割協議の対象とならないので渡したい方に渡すことが出来る事は、よく知られています。

ただ、中には「他の相続人に知られることなく、渡したい方に渡すことが出来ます」等の謳い文句でセールスが行われる場合があります。

確かに生命保険金は遺産分割協議の対象外です。

しかし、他の相続人に知られることなく、となると一定の条件が必要となります。

確認すべき事項は2つです。

1つ目は相続税の基礎控除額です。

相続税の基礎控除額は「3000万円+600万円×税法上の法定相続人の数」で算出されます。

例えば相続人が、配偶者と子2名なら、3000万円+600万円×3名=4800万円が基礎控除額となります。

この場合、相続財産が4800万円以内なら相続税の申告は不要となります。申告不要なら遺産分割協議書が出来ればそれに従って相続財産が分割されます。遺産分割協議書の掲載対象とならない生命保険金は表に出てきません。

ここで気を付けるべきことは「税法上の法定相続人の数」です。

養子がいれば法定相続人の数に加算できますが、加算可能な養子の数は、①実子がいるか、実子がなく養子が1名の場合は1名、②実子がなく養子が2名以上である場合は2名となります。

相続人が配偶者と子2名で、養子が2名いた場合なら、上記①のケースに該当するので、税法上の法定相続人の数は5名ではなく、4名(配偶者、実子2名、養子1名)となります。

また、相続放棄があった場合もなかったものとして法定相続人の数を数えます。例えば相続人が配偶者と子1名、被相続人の両親はおらず、その代わり被相続人に兄弟姉妹8人がいる場合。仮に子が相続放棄をした場合、民法上、法定相続人は配偶者と兄弟姉妹の合計9名となります。しかし、税法上は放棄があってもなかったものとして考えますので、放棄前の数が採用され、法定相続人は2名となります。

2つ目は、生命保険金が「みなし相続財産」となることです。つまり本来の相続財産ではないものの、民法と違い相続税法上は相続財産とみなされて課税対象となるのです。

「500万円×税法上の法定相続人の数」が生命保険金の非課税限度額となることは既に示した通りです。つまり本来の相続財産とみなし相続財産の合計が基礎控除額+非課税限度額に満たない場合は申告不要となる可能性がありますが、限度額合計を超えると確定申告が必要となり、特に生命保険金は誰が幾ら受け取ったのか申告書に明記されますし、申告時には相続人全員の同意が必要となるのです。また、生命保険金の非課税限度額は相続人が受け取った保険金にしか適用されません。

ここで例として、相続人が配偶者と子2名の計3名、相続財産が4500万円の土地建物と相続人あての生命保険金1000万円の合計5500万円の場合を考えてみます。

相続税の基礎控除額は3000万円+3名×600万円=4800万円となります。

生命保険金非課税限度額は500万円×法定相続人の数3名=1500万円となります。

控除額合計は6300万円となり、各相続財産は基礎控除額、非課税限度額内に収まり、申告不要となります。

しかし、仮に生命保険金のうち500万円の受取人が法定相続人である子、残りの500万円の受取人が法定相続人でない方(例えば被相続人の母)だった場合は結果が違ってきます。

相続人である子への保険金は非課税限度額の対象ですが、相続人でない母への保険金は対象とされません。

そのため課税価額は土地建物4500万円+母への保険金500万円=5000万円>基礎控除額4800万円となり、相続税の申告が必要となり、遺産分割協議書には記載されないものの、相続税申告の段階で他の相続人に知られる可能性が出てきます。

以上のように、金融機関のセールストークの中には一定の要件が整っていなければ成立しないにも拘わらず、説明担当者の理解不足等により十分な説明のないまま案内されるものもあります。

ご自身の亡き後の事をご検討される場合は、セカンドオピニオンとして税理士やFP等をご利用頂き、確認や検証をしておくことをお勧めします。

生前贈与加算の改正と老後の暦年贈与活用

贈与税の暦年贈与非課税枠の利用を考えている方にとって2024年1月1日からの生前贈与加算改正は確認しておくべき事項です。

ここでは改めて贈与税の暦年贈与非課税枠を利用するときの考え方を見直してみます。

1.生前贈与加算の改正

従来、相続開始前3年間に発生した贈与は、相続が発生した場合は相続税額計算上、課税対象として扱われてきました。

贈与税は暦年贈与非課税枠を設け、受贈者当り年110万円以内の贈与は非課税とされていますが、相続開始前3年以内の贈与は相続税の対象とされてきた訳です。つまり、過去10年間毎年110万円の非課税贈与を行っていたとしても、相続が発生すれば相続開始前3年間の贈与は相続税の対象とされ、非課税で贈与できた金額は7年分の770万円という事になります。

今回の改正では生前贈与加算の対象が3年から7年に変更されます。

2024年1月1日に施行され、26年12月末までは3年間、27年12月末までは4年間、28年12月末までは5年間、29年12月末までは6年間、30年1月1日以降は7年間の生前贈与加算とすることで完成となります。

仮に23年1月から10年間、毎年110万円の非課税贈与を行って、33年に相続が発生した場合、7年分770万円が生前贈与加算され、非課税で贈与できた金額は330万円となってしまうわけです。

これでは今更、生前贈与を行っても意味がない、と考える方もいるかも知れません。しかし家庭の資金繰りから見ると別の有効性が見えてきます。

2.生前贈与の本当の有効性

ここに770万円の預金を持つ高齢者と一人息子がいます。仮に相続税の計算上、非課税枠は0とします。暦年贈与を行わないまま4年が経ち、高齢者が痴呆症になってしまいました。入院費は年100万円かかります。

痴呆症で意思疎通が出来なくなると、金融機関は預金を凍結します。親の口座から入院費は引き出せなくなります。3年後、高齢者は亡くなり、770万円の預金が残りますが、息子は3年分の入院費300万円を立て替えています。これは負の相続財産として認められます(※)ので相続税の計算をする際は770万円-300万円=470万円が課税対象となります。

(※)負の財産と認められるには息子が立替を行っていた事を証明できる領収書やメモ等の記録が残っていること、親の治療費を息子の医療費控除分として申告していないこと等の要件が必要となります。

今度は110万円の贈与税暦年贈与非課税枠を利用していた場合を考えてみます。年110万円の贈与を4年間行った後、高齢者が痴呆症に罹ります。以降は意思確認が出来ないため預金の払出は出来ません。しかし息子の手元には440万円があります。高齢者は3年後に亡くなり、330万円の預金が残っていますが、息子は300万円の入院費を立て替えてます。相続税の計算上、330万円+440万円-300万円=470万円が課税対象となります。

生前贈与してもしなくても470万円が課税対象となるわけで、違いはありません。

しかし、生前贈与をしていなかった場合、300万円は全て息子の手元資金から充てなければなりません。相続開始後に回収できるものの、当面自由にならない資金が300万円+親の預金770万円=1,070万円となるわけです。

一方、生前贈与を行っていた場合、入院費は生前贈与分440万円から充当できます。3年後高齢者が亡くなった時も手元には140万円残っています。自由にならない資金は高齢者の預金330万円だけだったわけです。

1,070万円と330万円の差は資金の効率的な活用を考えると小さなものではありません。

高齢者が入院した場合、「入院費をどうするか」が多くの家庭で問題となります。

大抵の方は、親がまだ介護が不要な時に「親が亡くなった時」の相続税の心配をされます。しかし、相続の前には「介護」があります。大抵の方はこの点に気付かず、親の介護に直面したときに大変な苦労をされるのです。

ご本人の意思表示が困難になった場合、ご本人の預金からの払出は出来なくなります。相続税を考える前に「介護のことも考えて贈与税の非課税枠を利用する」という事こそ、老後の暦年贈与非課税枠利用を考える上で必要な視点なのです。

そして、必ずFPや税理士等に相談してみる事をお勧めします。きっと力になって頂ける事と思います。

労働問題・あっせんと調停の違い

退職金の支払い等が就業規則通りに行われないで困っているが、労働裁判までは起こしたくない場合、労働局や社会保険労務士会等のHPを見ると、労使の話し合いによる解決方法として「あっせん」や「調停」という制度が紹介されています。

両者にはどのような違いがあるのかを簡単に説明します。

「あっせん」とは従業員又は事業主が労働局や社会保険労務士会に申し込みを行い、指定日に従業員と事業主が集まって、労働局や社会保険労務士が立会人として間に立って一方の申出内容を聞き取り、それを相手方に伝え、それに対する反論を聞き取り、再び相手方に伝える、という行為を繰り返し、意見の一致を図る手続きです。

1日で終了し、2回程度の意見交換を行い、両者の意見が一致した場合は勿論のこと、一致しない場合も、一致しないという事をもって終了となります。

「あっせん」の際、立会人は話し合いに意見を挟みません。あくまでも当事者間の了承を旨とし、アドバイスを行ったとしても結論を導くことまでは行いません。

無料で行えますが、対象が労働法の違反等、明らかに具体的な法律違反である場合は、制度の目的が「意見の一致を図る」ことである故、解決方法としては馴染まない可能性があります。

「調停」とは従業員または事業主が家庭裁判所に申請を行う事により開始する制度です。

手数料が必要で、賠償金として求める額により金額が変わってきます。又、手数料は申請者負担となります。

調停人は弁護士、社会保険労務士等が行い、指定日に従業員と事業主が家庭裁判所に集まり、調停人が間に立って両者の申出内容を聞き、相手方に伝え、それに対する反論を聞き取り、再び相手方に伝えます。

「あっせん」との大きな相違点は①両者の意見が一致するまで、又は一致しないことが明らかとなるまで、何回でも行われる点です。1日で終わるとは限りません。

また、②対象となる問題が労働法の違反等、具体的な法律違反である場合には、調停人からの意見が入る事も大きな相違点です。「調停」が不成立になった場合、労働裁判に移行することも多い為、非公開とは言うものの、調停人の意見も法律に則ったものとなる傾向が強い様です。

概して労働問題は事業主側の立場が強い為、従業員側に十分な情報がない事から、従業員側が泣き寝入りせざるを得なくなりがちです。

関係する法律が多岐に渡り問題を整理するのに手間がかかる上、相談できる所も限られ、何処から手を付けていいのか分からなくなることも原因として考えられます。

解決に当たっては、先ずはFPや社会保険労務士に相談し、問題の整理から始める事をお勧めします。

口座売買の誘惑

昨今、手軽にお金を稼ぎたければ、「アプリ等で新規預金口座を開設して貰えば、それを高値で買い取ります」等との宣伝が増えているようです。

多くはネットなどを通じて高額な報酬と「万一、問い合わせがあっても『知らなかった、身に覚えがない、口座を止めてもらって構わない』等と言えば犯罪にはなりません」等の謳い文句誘われるケースが多い様です。

犯罪にはならないとの謳い文句を信じて売却される方もいる様ですが、そんなことはありません。

あなた名義の口座は売却後、あなた名義で、口座開設時のあなたの本人確認書類がついたままマネーロンダリングに使われます。

口座に不審な入出金が発生したら、すぐ金融機関のチェックが入ります。

金融機関は名義人あて電話連絡し、取引等の内容を確認します。

何回か電話してつながらなければ犯罪に使われている可能性濃厚と判断されてしまいます。

連絡が着けば取引内容について質問されます。ここで万一、問い合わせがあっても『知らなかった、身に覚えがない、口座を止めてもらって構わない』等と言えば犯罪にはなりません」との言葉を信じてその通りに対応したとしても、それで事は済みません。

金融機関にはあなたの本人確認書類の写しがあります。

あなたの口座に振り込まれた履歴は把握していますし、あなたの口座からの振込取引も、誰が、何処の金融機関の、誰に送金したのか、すべて把握しています。

「身に覚えがない」と言った所で、あなたの名前を使って、あなた以外の誰が、何処の金融機関の、誰あてに幾ら送金したか把握された時点で、口座が不正利用されたと判断され、あなたは共犯者とみなされます。

あなたの名前は警察を含めた金融機関のネットワークに記録され、今後金融機関があなたの名前を検索する都度、アラームが表示されますし、新たな口座を作ろうとする際には、それなりの方として対応される事となります。

最悪、新たな口座は一切作れなくなり、振込手続きが出来なくなる可能性もあります。

またそれらの記録が、あなたを投資詐欺等の被告とした裁判の証拠となる事もあります。

ネットワーク社会の発展に伴い、預金口座開設手続きも容易なものとなって来ています。

しかしそれは犯罪に巻き込まれることも容易なものとなって来た事を意味しています。

犯罪者は常に甘い言葉であなたを誘ってきます。目先の欲に惑わされることのない様、お気を付け下さい。