定年でリタイアしたとき考えること(保険・年金)

人は誰もが年を取り、サラリーマンはいつか定年を迎えます。そのまま継続雇用で会社に残る方もいれば、定年を契機に一旦リタイアする方もいます。

リタイアしたとき、頭に浮かぶことの中に健康保険や年金があります。

先ず退職後の健康保険ですが、再就職しない場合、選択肢は3つです。

①任意継続被保険者となる。②国民健康保険に加入する。③健康保険に加入している家族の被扶養者となる。

任意継続被保険者とは勤めていたときに加入していた健康保険に継続して2年間加入する制度です。任意継続被保険者となるには、被保険者としての資格喪失日(退職日)から20日以内に保険者であった協会や組合に申し出る必要があります。

一方、国民健康保険の被保険者となるには、資格喪失日から14日以内に自分の住所地を管轄する市町村に申し出る必要があります。

つまり、①、②、③を自由に選択したい場合は最短14日以内に決定する必要があるのです。

任意継続被保険者の場合、勤務中の自己負担分は半分でしたが、退職後任意継続被保険者となった場合は全額、単純に言えば、倍の金額を払う必要があります。また、任意継続被保険者となれる期間は2年間のみ、その後は国民健康保険に加入するか、被扶養者となる必要があります。

国民健康保険の保険料は、市町村ごとに前年の所得や保有資産によって決定されますが、一般的には加入後の保険料はかなり割高になる可能性があります。

その他、任意継続被保険者の場合、健康保険組合によっては独自の付加給付がある先もありますので一般的には健康保険より有利と言われています。

被扶養者となる場合は、扶養者による生計維持要件等があります。扶養者の保険料負担は増えますが、被扶養者にかかる医療費は扶養者の確定申告時、医療費控除の対象になりえます。

どれが自分に合っているかは人それぞれです。ただ、任意継続被保険者も国民健康保険も保険料の前納が可能であること、前納すれば月々納めるよりトータルの保険料は割引されることは覚えておいた方が良いでしょう。

無論、①、②、③を選択後でも、健康保険適用事業所に再就職した場合は改めて健康保険の被保険者となります。

以上の点だけを考えると、被扶養者となれないなら、一旦任意継続被保険者となり、2年後に国民健康保険加入という選択肢が一般的なのかもしれません。

年金は最低限以下のポイントを押えておく必要があります。

①原則65歳から給付となること、②60歳からの繰り上げ給付も可能だが、繰り上げをすると年金額が1か月当り0.4%減額されること(60か月なら24%の減額)、③繰り上げを行う場合は厚生年金と同時に行う必要があること、④66歳からの繰り下げ給付も可能で、繰り下げの場合は国民年金のみ、厚生年金のみ繰り下げの選択が可能であること、⑤繰り下げは最長10年可能で、繰り下げすると年金額が1か月当り0.7%増額されること(15か月なら10.5%、120か月なら84%)

よく、繰り下げした場合、貰い始めて何年ぐらいで65歳で受け取り始めた額と同額の額になるかを計算した記事も見かけますが、個人的にはいかがなものかと思います。

リタイア後は一切働かない、という方もいらっしゃると思いますが、それももったいないのではないでしょうか。もし自分のやってみたいことがあって、それで人に喜んでいただけたなら、芝居でも、漫才でも、レジ係でも、交通指導員でも、身体の動くうちは何でもやった方が良いと思います。

理想を言えば、リタイア後やってみたいこと等で65歳まで生活を繋いで、65歳から国民年金だけ貰う、やってみたいことがうまくいっていれば厚生年金給付を66歳以降まで伸ばす、と言った所が、社会人としての人生をフェードアウトするに当たって妥当な所ではないでしょうか。無論、60歳から65歳になるまでの間に人生のキャッシュフロー表をチェックしておく必要はあります。しかし、リタイアしていきなり人生のキャッシュフローと言われて、考え込むのもいかがなものかと思います。

先ずは健康保険をどうするか考えて、年金は最低限のポイントを抑えてじっくり構えることも大切なのではないか、と思います。リタイアした後までストレスに悩まされる必要はないのですから。

被相続人の医療費と準確定申告

一般的に準確定申告は死亡者が自営業者だった、年間2千万円以上の給与所得があった、公的年金が年間400万円以上あった人などが対象となります。

この情報を知って、「私たちには関係ないもの」と考える方も多いと思います。しかし、準確定申告をする、しないに関わらず、被相続人にかかった医療費を見直してみることは必要かと思います。

年金の源泉徴収票をご覧になると分かりますが、一般的に年金は所得税等が控除されて支払われています。ご高齢でご病気などがある方は、医療費控除の確定申告をして源泉徴収された税金から還付を受けられる方もいらっしゃると思います。

準確定申告というのは毎年2月から3月にかけて行っている確定申告を被相続人の死亡後4か月以内に行う手続きなのです。つまり被相続人が支払った医療費のうち、亡くなった年の1月以降に被相続人が支払った医療費は準確定申告の医療費控除の対象になるのです。現代社会において、大抵の人は亡くなる時に病院でなくなります。亡くなるまでの医療費の内、被相続人名義で支払っている医療費は準確定申告における医療費控除の対象になるのです。

仮に配偶者が被相続人の医療費を支払っていたなら、その医療費は、被相続人の未払医療費を相続人である配偶者が支払ったものとして、相続税法上、配偶者の債務控除の対象になります。相続人である子が支払っていても同様です。

但し気を付けて頂きたいのは、被相続人が、子の扶養者になっている場合、つまり被相続人の生前、被相続人の医療費を子が医療費控除の対象として申告していた場合です。その場合、子が支払った被相続人の医療費は例年通り、子の確定申告において医療費控除の対象として申告する必要があります。

相続人でもない、全くの他人が、被相続人の医療費を支払っていた場合は、相続人に対して弁済を請求することになり、赤の他人の税法上の控除などは行われませんが、その様なケースは現代社会においてまず発生しないでしょう。

つまり、被相続人の医療費一つについても何らかの税務上の処理が発生する場合があるのです。相続に当たっては、銀行預金などの正の相続財産のみならず、負の相続財産(債務控除)についても考えておく必要があります。場合によっては準確定申告の対象となり、還付が受けられるものもありますから。なお準確定申告の還付金は、相続財産に当たりますのでそのあたりも気を付けて下さい。

危険な相続・片親と兄弟姉妹が相続人であるとき

片親が亡くなって、残されたのはもう一人の片親と自分の兄(弟)、というケースはよく見かけます。そして残った親が亡くなった後、仲が良かった兄(弟)との縁が切れた、というケースも耳にすることがあります。

これは兄弟がそれぞれ結婚している場合に見られがちです。片親が存命の間は、兄弟は親を軸にまとまります。残された親は兄弟にとって大切にしたい共通の人ですから。

相続財産についても、大方の兄弟は亡くなった父(母)の財産は取り残された母(父)に相続させることでまとまることが多いです。悪い事ではありません。

しかし、問題は残された片親が亡くなった時です。

両親が亡くなったあとは、それぞれの兄弟にとって一番大切な人は、自分の配偶者や子になります。家族が内の人であり、兄弟は外の人となります。大切にしたい共通の人がいなくなるとどうしても意見がまとまりにくくなり、結果遺産分割において仲違いしてしまうことがあります。

一旦お互いの主張を抑えて、親の財産(不動産など)を共有にする兄弟も多いですが、時間が経つと将来の取扱いについての意見が合わなくなって、結局売却して遺産分割せざるを得なくなり、最悪、遺産分割後は兄弟の縁が切れてしまうこともあります。

両親亡き後、兄弟で円満に取り扱うに当たっては、お互いに相当の努力が必要となることは、覚悟しておく必要があると思います。

こうした問題を回避するには、片親が存命中に、片親と兄弟が話し合って、両親亡き後の財産をどうするかも考えて、遺産分割を行うことが必要なのではないかと思います。具体的には片親が相続するのは現預金のみとして、他の不動産などは子に相続して貰う等の方法です。

相続財産の基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の人数です。仮に片親と子2名が相続人である場合は4,800万円が基礎控除額となります。

よく、配偶者に対する相続財産の軽減制度を利用してすれば、配偶者の相続する財産は1億6,000万円まで非課税となるのだから、残された片親の相続財産はなるべく多くした方が良い、と考える方も多い様ですが、それは問題の先送りです。

両親亡き後、子2名の非課税枠は4,200万円になります。仮に残された片親が全ての財産を相続し、その金額が1億円だったとします。そしてそのまま1億円の財産が残っていたとすれば、単なる納税の先送りです。仮に相続財産が4,000万円だったとしても、こんどは兄弟だけで遺産分割協議を行うわけですから、前述した仲違いに発展する可能性は十分あります。

むしろ片親が存命中に、将来兄弟がどうあって欲しいかも踏まえて、遺産分割について話し合った方が、そして出来れば片親が存命中に、親子了承の上で、現預金以外の財産を子に相続して貰った方が、遥かに争いが少ないのではないかと思います。

例えば、実家の土地建物の名義は子の一人としても、家屋に配偶者居住権登記を行えば、親の存命中は居住権が認められますし、子の相続する不動産の評価額も低く抑える事ができます。

その代わり、実家を相続しない子には、代償として実家を相続する子から幾らかの現預金を支払うとか、実家を相続する子が相続を契機に親と同居を始めるとか、考えられる方法は多くあります。むしろ残された片親の将来の生活と、両親亡き後の将来も考えた相続を、親の希望も聞きながら共に話し合うことの出来る絶好の機会なのです。

親もまだ元気なので、とりあえず残された片親に全て相続させる。この「とりあえず」という考えはなるべくしない方が宜しいのではないか、と思います。

相続発生時の手続きについて

相続発生時は、特定の期間までに行わなければならない事が多くタイミングを見計らって行う必要があります。以下では相続発生時から行うべきことを順に追ってゆきます。

1.相続発生後7日以内:死亡届の提出

提出先:死亡者の本籍地・死亡地、または届出人の所在地の市町村役場

提出者:死亡者の親族・同居人など(葬儀社の代行も可)

必要なもの:提出者の印鑑

立ち会った医師が作成する死亡診断書と、遺族が記入した死亡届を提出する。死亡届は時間外受付も可能だが、併せて提出する火葬許可申請書は時間外受付不可の自治体もある。

死亡届と火葬許可申請書を提出すると火葬許可証が公布されるので、火葬場に提出する。

火葬後に火葬済印が押された火葬許可申請書が返却されるが、これが埋葬許可書となる。

なお、死亡届と死亡診断書は後の手続きに必要となるため提出前にコピーを取っておくこと。

2.相続発生後10日以内:受給権者死亡届(報告書)の提出

提出先:手続きする人の住所地の年金事務所、街角の年金相談センター

提出者:遺族

必要なもの:死亡診断書のコピー、死亡者の年金証書、死亡者と提出者の住民票や戸籍謄本等

年金の受給権者死亡届は、国民年金は14日以内、厚生年金は10日以内に提出する。年金機構にマイナンバーを提出していない場合、死後も年金が支給され続けてしまう可能性があるため速やかに手続きを行う。併せて未支給年金・未支払給付金請求書も提出する。

受給資格は死亡日に消滅するが、支給は死亡月分まで行われる。2か月に一度の支払いの為、未払いとなるケースもあり、その場合遺族がその分を請求できる。

3.相続発生後、14日以内:健康保険・介護保険資格喪失届の提出

提出先:市町村役場

提出者:遺族

必要なもの:死亡者の健康保険証、介護保険証、提出者の印鑑

自治体によっては死亡届により手続きが行われる場合もあるが、そうでない場合は遺族が手続きを行う必要がある。健康保険組合や協会けんぽに加入していた場合は事業主が手続きを行う。死亡者を被保険者として被扶養者がいる場合は全員分の健康保険証を事業主に返還した上、被保険者は国民健康保険への加入または他の家族の被扶養者となるなどの手続きが必要となる。

4.相続発生後、14日程度:世帯主変更届の提出・公共料金などの名義変更

世帯主変更届は15歳以上の遺族が2名以上いる場合に住所地の市町村(戸籍課など)へ提出が必要。その他、電気・ガス・水道・NHK受信料・電話料金など生活関連の名義変更の必要有無を確認しておく必要がある。

但し、キャッシュカードの解約や、スマホの解約、SIMカードの解約は慎重に行う必要がある。

デジタルサービスのアカウントは現在一身専属性が強く、遺族と言えど相続等は出来ない。

データのバックアップやメール等は解約すると再生不可となる場合がある。

同様にパソコンやスマホの処分などは一通り相続手続きが落ち着いた後に行う方が無難。

5.相続開始後、3か月以内:遺言書の確認、相続人や相続財産の特定、相続放棄と限定承認

民法上、相続放棄や限定承認は相続開始後3か月以内とされている。遺言書の確認や相続人、相続財産の特定は3か月以内に行わなければならないという決まりはないが、それらが分からないと放棄して良いものかどうかも判断できない事と思う。

先ずは相続開始後2か月程度を目途に遺言書の有無を確認すると共に相続人の特定や相続財産調査等を行う事が必要。

遺言書は故人の本棚や机の引き出しなどを確認すること。なお自筆証書遺言の場合は発見しても決して開封してはいけません。家庭裁判所で「検認」という手続きを行わないと過料が課される場合があります。自筆証書遺言を発見したら先ずは家庭裁判所や行政書士等に相談して下さい。

相続人調査は基本的には被相続人が生まれてから死亡するまでの一連の戸籍謄本が必要であるが、令和6年から最寄りの市町村で全国の戸籍が請求可能となった。一部コンピュータ化されていない謄本は戸籍を有する市町村へ請求する必要があるが、行政書士等に取得を依頼する方法もある。

相続財産調査は預金通帳、保険証書、金融機関からの郵送物等を手掛かりに問い合わせを行う。なお、生命保険については証書などがなくても生命保険協会あて未請求の保険の有無を確認することも可能。また、毎年市町村から来る不動産に係る固定資産税請求書は土地建物の評価を行う上で重要な資料となるので確保しておく方が良い。

6.相続開始後、4か月以内:準確定申告

提出先:死亡者の住所地を管轄する税務署

提出者:相続人

必要なもの:死亡者の源泉徴収票(年金)、相続人全員の押印など

死亡者が自営業だった、年2千万円以上の給与所得があった、公的年金が年400万円以上あった人などが対象となります。なお、故人が給与所得者であった場合は年末調整で事業主が納付手続きを行うため、申告は不要です。

7.相続人発生後、10か月以内:相続税の申告

よく相続税の申告までに全ての相続手続きを終わらせなければならないと考えている方もいらっしゃる様ですが、必ずしもそうではありません。

相続財産額が、基礎控除額(=3,000万円+600万円×法定相続人の人数)以下であるなら申告は不要です。先ずは上記の5に記載した相続人や相続財産の特定をキチンと行う事が争いの少ない相続の第一歩であると考えて下さい。