委任及び任意後見契約活用の留意点2・活用に注意すべき事例

委任及び任意後見契約(移行型任意後見)は高齢者にとって有効なツールの1つです。しかし、作成時期を誤ると本来の機能を発揮しない場合があります。

最近発生した事例をご紹介します。

1.作成までの道のり

ご高齢で単身、お子様もいらっしゃらないAさんは呼吸器の病気で病院に搬送されました。現在は呼吸器を装着され、胃ろうも行っているため外出も会話も出来ません。筆圧も弱くなり、文字を書くのも不自由となってしまいました。ただ、意識はありますので首を動かしたり、対話ボードを使ってコミュニケーションを取っています。

会計など病院外のことは妹のBさんがお世話をしていましたが、入院が長くなるにつれ入院費を立て替えて行くのが難しくなってきました。Aさん名義の預金を使おうにも、Aさんは会話も外出も筆記も出来ないため、引き出すことが出来ません。

Bさんが公証人に相談すると委任及び任意後見契約(移行型任意後見)を紹介してくれました。

「『委任及び任意後見契約』があれば意思能力が確認出来る間は代理権が証明できるので、金融機関の窓口で委任及び任意後見契約公正証書を提示すれば手続きが出来る。」

この様に説明されたBさんは、Aさんに説明して委任及び任意後見契約の作成手続きを行いました。委任及び任意後見契約作成には相談から始めて完成まで3か月程かかりました。

公正証書が出来上がると、Bさんは早速銀行に持参しました。

2.銀行の対応

委任及び任意後見契約を受けた銀行はこの様に考えます。

「Aさんは意思能力がある。従って受任者Bさんは委任者であるAさんから代理権を受任している。ならば代理人手続きに則って対応すればよい」

問題はこの代理人手続きです。これは各金融機関で対応がまちまちです。

本人に専用の委任状を書いて頂く銀行もあれば、電話で意思確認をする銀行もあります。

Aさんの場合、筆記は困難で電話を利用することも出来ません。

本件の場合は幸い銀行の職員が直接Aさんの病室を訪問して意思確認を行ってくれることになりました。

3.現実の手続き

ところがAさんの病室を訪れると大きな問題が発生しました。Aさんとのコミュニケーションが出来ないのです。

「銀行の預金を解約しますか?○○へ振り込みますか?手続きはBさんにやってもらっていいですか?」

幾ら呼び掛けてもAさんは職員を見つめるだけで何の反応も示しません。

Aさんは公証人が病室に訪問してから、公正証書を手にするまでの1か月程度の間に認知症が進行して意思確認がスムーズに出来ない状態になってしまったのです。

Bさんも必死に呼びかけますが、十分な反応はありません。

結局、銀行の職員に半日同席してもらい、様態の良いときを見計らって意思確認を行って貰い手続きを行う事が出来ました。

4.法律家の主張をうのみにしてしまう危険性

Aさんの場合は幸い銀行の対応の許容範囲が広かったため手続きを行うことが出来ました。

もし原則的な対応をされた場合、Aさんは意思能力がないものとみなされ、任意後見契約の発効を依頼され、預金の解約は後見監督人が就いてから、恐らくは2~3か月あとになってしまったことでしょう。後見監督人が就くと以降は後見監督人への手数料支払いも発生します。

経済的な負担はますます切迫したものとなっていた事でしょう。

本件の問題点は何だったのでしょうか?それは相談した相手が『法律の』専門家だったことです。

無論、法律に則った手続きは必要です。しかしご高齢で入院して、既に会話もできなくなっているAさんが委任及び任意後見契約を作っても、公正証書が完成したときには既に委任契約では対応出来なくなっている可能性は充分に予想できます。

いつ、どの様なタイミングなら「委任及び任意後見契約」が有効なのか、この点は『現場実務経験』の乏しい『法律の』専門家の盲点です。

確かに「委任及び任意後見契約」は有効な手段の1つではあります。しかし相談者の置かれている状況は百人百様です。相談者の状況を十分に踏まえてカードを切ることが必要なのです。

どうか「委任及び任意後見契約」をお考えの方には、先ずは『現場実務に精通した』行政書士等に、時期、状態を踏まえ、何が最善の方法であるか、をご相談頂くことをお勧めします。

委任及び任意後見契約活用の留意点・法律家の主張をうのみにしてしまう危険性

委任及び任意後見契約(移行型任意後見)は意思能力が認められる期間は委任契約として、認知症等が発症し意思能力が認められなくなってからは任意後見契約として利用できる制度です。

公証人や弁護士等の方による啓蒙も進み、昨今活用される方も増えてきましたが、他方その活用を啓蒙する公証人や弁護士の方々の中には必ずしもその実務に精通されているとは言えない方もいらっしゃる様です。

ここでは実際の現場における委任及び任意後見契約の位置付けを説明します。

先ず、皆様にご認識頂きたいのは、『委任及び任意後見契約があれば、意思能力が確認できる間は代理権が証明できるので、金融機関の窓口で委任及び任意後見契約公正証書を提示すれば手続きは出来る』と説明する公証人等の方は、法律論には精通しているが実務上の手続きは行ったことがない方が多い、という事です。

確かに委任及び任意後見契約により、委任者から受任者への代理権委任は証明できます。

しかし、委任及び任意後見契約の効果はそこまでなのです。

委任及び任意後見契約を受けた金融機関はこのように考えます。

「本人は意思能力がある。従って受任者は委任者から代理権を受任している。ならば当行の代理人手続きの手順に沿って対応すれば良い」

ここで法律家の方々が勘違いされるのは委任及び任意後見契約公正証書があれば、それだけで手続きが完了すると誤解されている点です。

銀行窓口で代理人手続きを取ったことがある方はお分かりになると思いますが、金融機関によっては委任状を持参しても金融機関独自の委任状を求められることもありますし、名義人本人に電話で意思確認を求められることもあります。昨今は、今後の代理人手続きに係る依頼書を求める金融機関もある様です。

すなわち代理人手続きの方法は各金融機関各々が決めており、統一されている訳ではないのです。

金融機関としては委任及び任意後見契約公正証書を持参しても、それは代理人が来店した、というだけの話で、あとは各々の金融機関の定める代理人手続きに乗せるだけの話です。

従って受任者は各金融機関の手続きに従って、委任者と共に別途個別の委任状を提出したり、金融機関が規定する依頼書を記入したり、金融機関からの委任者あて電話による意思確認を了承することが必要となるのです。

委任及び任意後見契約の委任契約は、契約締結時に委任者の意思能力があったこと、その委任者が代理人手続きを希望していたことを明示しているだけであり、一般の代理人手続きの申込みと何ら変わることがないからです。

中には金融機関に食って掛かったり、アドバイスを受けた公証人に泣きつく方もいらっしゃるようですが、本人の意思能力があることが前提の委任契約である以上、あとは金融機関の通常の代理人手続きに則って対応して頂く以外に方法はありません。

また、代理人手続きを行う中で、金融機関から委任者の意思確認を求められているにも関わらずそれを拒絶した場合は、金融機関から本人はすでに意思確認が出来ない状態にある、とみなされ、対応してもらうことが難しくなる可能性もあります。

作成した公証人や弁護士に相談したとしても、金融機関が通常の代理人手続きとして規定されている手続きを求めているにも関わらず、それを省略して委任及び任意後見契約公正証書のみを以って金融機関に手続きを求める事は、金融機関に対して通常の手続きを無視して特別の手続きを求めることと同義であり、覆すことはまず難しいでしょう。

ここに一般の法律家と、実務経験のある法律家との認識の違いが出てきます。

委任及び任意後見契約(移行型任意後見契約)の活用を考える場合は、先ずはその実務に精通した行政書士等に相談し、委任及び任意後見契約が最善の方法であるか検討して貰うこと、既に委任及び任意後見契約を締結している場合は金融機関との対応の間に入って貰うことも、スムーズな運用に繋がる方法の1つであると思います。

本人以外の方による預金払い出しに潜む危険性

本人が入院して、あるいは介護施設に入って銀行に行けなくなったとの理由でご家族がご本人のキャッシュカードを使って払出を行うケースがあります。

配偶者だから、子供だから、兄弟だから等の理由で行われている様ですが、キャッシュカードの貸与は銀行の預金規定に違反する行為です。

銀行が知った場合は原則払出が出来なくなりますし、万一本人の相続が発生した場合、相続人から訴えられる危険があります。払出の事実は銀行の履歴に残りますし、胡麻化すことは出来ません。

安易に払出を行うよりも、先ずは銀行に事情を説明し、対応を検討して貰う必要があります。

銀行にとっては個別案件となりますので、経常業務には載っていません。窓口の係の方よりも上席にお願いして対応して頂く方が良いでしょう。もしご自身で交渉するのに不安があるときは事前にFPや行政書士等に相談し、場合によっては同行をお願いした方が良いと思います。

昨今は夫が施設に入り、費用捻出のため高齢の妻が窓口で相談する等のケースも増えていますが、窓口で額面通り法定後見人を薦められそのまま退店させられてしまうことも多い様に見受けられます。

また説明を聞いても十分に理解出来ず、何をどうしていいか分からないという場合もある様です。

銀行も法定後見を付けるには場合によっては半年以上の時間がかかる事は知っています。費用のかかる事も知っています。本来、後見を付けるまでもない方にも後見人を要求することは、ある意味無責任な行為です。

先ず銀行に行き、きちんと事情を説明する。法定後見を付ける以前に、どうすれば必要な資金を払い出すことに協力して貰えるか、現状に向き合って貰えるか、FPや行政書士等と連携を取りながら、相談し、交渉を進めることをお勧めします。

介護費用を支払う時の考え方

親が認知症等になってしまい、急に入院費の支払が必要となった場合の支払方法について考えてみます。

子が自分の手元資金から支払う場合もありますし、親の口座から払出を行う場合もあります。支払を受ける側にとっては違いはないのですが、支払う側にとっては後々思わぬ影響が生ずることがあります。

以下で、子が今まで確定申告で親にかかった医療費を医療費控除として申告していた場合(親と生計を一にしていた場合)と、子が親の確定申告に一切関わっていなかった場合(子の確定申告で親の医療費を医療費控除として申告していなかった場合、いわゆる生計を一にしていなかった場合)に分けて考えて行きます。

1.親と生計を一にしていない場合

親と生計を一にしている、とは「常に子が親の生活費や療養費を負担している」場合です。

生計を一にしていないとは「常には子が親の生活費や医療費を負担していない」場合です。

いわば、親が一人暮らしで毎年の確定申告を自分で行い、医療費控除も自分で行っている場合等は生計を一にしていないと言えるでしょう。

このようなケースで子が親の入院費等の立替を行った場合、領収書や記録など、子が立替払いを行ったことを証明できる書類等を残しておくことで、将来相続が発生したときに「負の相続財産」として親の財産から立替分を回収することが出来ます。

無論、親が生きている間は、立替分として清算して頂くことも可能です。

しかし、立替払いを行って、都度清算して貰っていても、親の認知症等が進行し、意思表示も筆記も出来なくなったら預金の払出は出来なくなります。

この場合も、領収書等立替払いを行っている事を証明できる書類のある事が大切になります。金融機関に対して親の預金から清算を求める権利を持っている事を証する書類となるからです。

親の相続が開始するまで立替を継続できるなら相続手続きを待って清算すればいいのですが、立替金額は大抵どんどん増えて行きます。

親の相続開始前に、法定後見人を選任して清算して貰う方法もありますが、後見人を選任した場合、以降は後見人への管理手数料が、原則被相続人である親が亡くなるまで発生し続けます。

立替費用の清算だけなら、領収書等の書類を使って金融機関と払出の相談を行うことをお勧めします。

2.親と生計を一にしている場合

親と生計を一にしている場合は、おそらく毎年の確定申告で親の医療費を医療費控除の対象としていると思います。入院費も同様、医療費控除の対象となります。従って全て子の懐から支払われる費用となりますので、立替という考え方はとられません。

相続が発生した場合も「負の相続財産」とはなりません。遺産分割協議において「寄与分」として、支払った医療費を加味した相続財産を頂きたい旨を他の相続人と交渉する必要があります。

3.親としてとれる対策

高齢となった親が入院した場合、症状が急変し、親族の対応が後手に回ってしまうことが多くあります。とりあえず支払っておく、という事も当然発生します。

人は誰でも齢をとり、形はどうあれ、いつかは状況が自分では儘ならなくなります。

子と生計を一にしていようといまいと、将来かかる医療費程度は贈与税の非課税枠を利用して子に渡しておく方が無難でしょう。

親の名義の預金では意思表示が出来なくなった場合に払出できなくなります。身体が動く間は、あるいは話が出来る間は、等と考えて何ら対策をしないまま認知症に至ってしまう方が多い様ですが、対策をとっていた場合と、とっていなかった場合では子への負担の大きさは雲泥の差となります。

具体的には少しづつでも毎年、子に資産を渡しておくことをお勧めします。現在の税法では受け取る側において年110万円までの贈与は非課税となります。また一定の金額以上の医療費がかかった場合は高額医療費として申請することで、一定額以上の支払額を還付して貰えます。

幾らが適切かは一概に言えませんが、

①合計100万円程度は数年かけて子に渡して管理してもらう

②万一の場合はそのお金から入院費を出してもらい、健康保険制度の高額医療費の申請を行って貰う

③子には必ず領収書を保管しておく様に指示しておく

以上の3点を子と話し合っておくだけでも、万一のときの対策として相応の効果が期待できます。

生命保険などを利用する方法もありますが、いざという時に支払要件に該当しているか否かは誰にも予測出来ません。不確実な将来に対してある程度柔軟な対応が出来るカードを子に持たせておくことが一番必要なのです。

ご家族のために・認知症への対策/任意後見制度

第1講 高齢者の抱える認知症のリスク

 ご高齢者の中には、ご自身が亡くなった後の事を考え、ご家族のために遺言書のご用意等を行っている方も多い事と思います。

 しかし、現実にはご自身がいなくなってしまうのは「死」からではありません。

ご不快に思われる方も多い事は承知で、あえて申し上げますが、現在の日本社会において、ご自身がいなくなってしまわれるのは「認知症の発症」からなのです。

 現在の日本社会で暮らすには、本人の意思確認は原則絶対必要条件です。預金の開設・払出・解約、施設入居、不動産の処分・賃貸借、物品の購入等、日常生活に関わるものは全て本人の意思確認が必要となっています。認知症、すなわち本人の意思確認が出来なくなった途端、これらの日常生活は原則全て停止します。

 ご本人名義の預金からの払出で生活費を支払っていたなら、その後の支払が出来なくなります。ご本人名義の賃貸不動産があれば、賃貸借契約も、修繕も出来なくなります。ご家族が本人のために車いすを購入しよう考えても、本人名義の口座から払出は出来ません。その結果、ご家族はご本人の生活費や、車いすの購入費用を、ご家族名義の口座から立て替え払いせざるを得なくなります。仮に賃貸不動産をご本人の生活の糧として活用していた場合、修繕も出来ず、新たな契約も出来なくなります。

第2講 認知症となったときの対策

 認知症が発症した後の対策としては、法定後年人を立てる方法があります。

 家庭裁判所に法定後見開始の申請を行い、家庭裁判所が選任した法定後見人に、本人の財産管理と身上監護に係る法律行為を行って貰うのです。法定後見人なら預金の払出も、賃貸不動産の賃貸借契約も本人に代わって行うことが出来ます。

 しかし、法定後見を行うに当たっては、以下の2つの事項を認識しておく必要があります。

① 時間と費用がかかること

 法定後見開始の申立には相当の費用と時間がかかる上、後見が開始すると本人の意思能力が回復するまで、やめることは出来ません。高齢者の場合、亡くなるまで続くことが大半です。

まず、医師の鑑定を経た後、家庭裁判所に申立を行うため鑑定費用に約5万円、申立費用に約1万円、専門家への手続き依頼費用で約10~15万円、手続き完了まで3~4か月はかかります。

更に保有する資産額によっては第三者の後見人と後見監督人が付けられ、その方々に毎月1~3万円×2の手数料を、本人が亡くなるまで払い続ける必要があります。仮に手数料が月3万円×2として亡くなるまで10年かかったら720万円の費用が必要となります。

②後見人を指名できないこと

後見人の仕事は大きく分けると①財産管理及び身上監護に係る法律行為、②家庭裁判所への定期報告、の2つです。万一、後見人が財産の不適切な管理を行っていると判断された場合、家庭裁判所により後見人を解任される上、損害賠償請求が行われる恐れもあります。

そのため後見人によっては、何処に出しても問題とされない安全第一の資産管理を最優先される方もゼロではなく、必ずしも家族の希望に沿って資産を活用して貰えない場合もあります。

法定後見人は家庭裁判所が選任しますので、原則、誰が法定後見人になるか申立人は選べません。また選任後は、法定後見人に不満でも不服申立は出来ません。

法定後見人と介護を行う家族との考え方が一致しない場合、時に介護にとって障害となる場合もありえます。

銀行預金については別稿「親が認知症である場合に、親の預金を払い出して介護費用に使うための金融機関との交渉」で記載させて頂きました通り、後見人を選任しないで対応する方法もない事はありません。が、対応できる範囲に限界があることや、介護する方の時間と体力、ストレス等を考えると、率先してお勧めは出来ません。

本人が認知症を発症する以前なら、もっと有効な方法を準備しておくことが可能です。

第3講 移行型任意後見の選択

第2講で法定後見を説明しましたが、後見制度には法定後見と任意後見の2つがあります。本人の意思能力が既にない場合は家庭裁判所が後見人を選任する法定後見を行わざるを得ませんが、本人の意思能力がある間は、本人が後見人を選任できる任意後見を行うことが出来ます。

以下、法定後見と比較した場合の、任意後見のメリットを挙げておきます。

メリット1.時間と費用が削減できる

本人が後見人を選任しますので、後見人は家族でも大丈夫です。家族を後見人にした場合、大抵、後見監督人が家庭裁判所により選任されますが、後見人への手数料をゼロにしておけば、任意後見開始までの手数料はゼロ、開始後の手数料も監督人1名分で済みます。

当初費用も公正証書作成時に約5万円、専門家への手続き依頼で5~7万円です。

公正証書作成は2週間程度で出来ますし、後見が必要となった場合も約2か月で監督人選任により後見が開始出来ます。

(なお、任意後見開始申立時は家庭裁判所あて約1万円の費用はかかります)

契約手続きは本人と後見人となる方が公証人立会いの下、公証人役場で行います。万一、公証人役場に行けない場合は、公証人に出張頂くことも可能です。

無論、後見人となった家族が必ずしも法律行為に慣れた方とは限りません。その場合は事前に、後見人が代理人を選任出来る条文を加えておけば、後見人は必要な時に弁護士でも司法書士でも代理人を立てることが出来ます。

メリット2.本人のことをカバーできる範囲が広い

そして法定後見との大きな違いは即効型、将来型、移行型の3種類があることです。

即効型とは、任意後見契約を締結すると速やかに任意後見契約が発効する契約です。

将来型とは、将来認知症が発症したときに、申立てにより速やかに任意後見契約を発効させる契約です。いずれも認知症が発症した場合に家族を後見人とすることのできる対策です。

自分で後見人を選任しておき、自分の意向を伝えておくことが出来るだけでも、認知症発症後のご本人およびご家族の負担は相当軽減できます。

しかし、それだけでは十分ではありません。中には突然認知症が発症する場合もありますが、大抵の方は身体の衰えが進行し、行動範囲が狭くなり、耳が遠くなり、コミュニケーションが取り難くなる、字を書こうにも筆圧が弱くなる等を経て認知症の発症に至る方が多いのではないかと思います。

この健康な状態から認知症に至るまでの期間をカバーできる可能性があるのが移行型任意後見なのです。

移行型任意後見契約とは「委任契約兼任意後見契約」の事を指します。将来後見人になって頂く方に、任意後見発効前は委任契約により、受任者(代理人)として本人の日常の法律行為を行って頂き、認知症発症後は後見契約により、後見人として働いて頂く契約です。

つまり、後見契約発効前は代理人として本人の意向に従った法律行為を単独で行うことが出来ます。

相手方によっては別途本人の意思確認を求められる場合もありますが、任意後見契約書は公証人役場で公正証書として作成しますので、代理人としての信用力はかなり強いものとなります。

万一、認知症が発症しても既に後見契約書は出来上がっていますので、家庭裁判所への後見開始の申立から発効までの期間はかなり短縮できます。

メリット3.本人の意思が反映され易い

そして1番のポイントは、予め契約書に条文を入れておけば、委任契約の発効を本人が希望するときから、とする事が出来ることです。

後見契約は認知症発症が契機となりますので、本人にはどうにもなりませんが、代理人に手続きを任せる委任契約は、契約後に本人の判断でいつから発効させるのかを決定できるのです。

場合によっては後見契約発効まで、委任契約を発効させないこともできます。

本人の意思がある間は全て本人の意思に従って手続きを行えるという点、および認知症発症後は事前に本人の意を汲んだ方を後見人に出来るという点で、移行型任意後見契約はご本人のみならずご家族にも優しい対策と言えます。

終講 まとめ

人間誰しもいつ亡くなるか、いつ認知症になるかは自由に決めることが出来ません。

しかし、人間は法律や社会制度で、自由にならない部分をカバーする手段を備えてきました。

現在の日本の社会制度において、移行型任意後見は健康な状態から認知症に至るまでの期間をカバーできる上、比較的円滑に後見へ移行できる点で、又、本人の意を汲んだ後見人を選任出来る点で、不安なく老後を過ごすための有効な手段の1つと言えるでしょう。

無論、任意後見は万能ではありません。法定後見人に認められている取消権はないですし、任意後見の対象となる法律行為は事前に契約書に明記しておく必要がある等、問題がないことはありません。また、最近は家族信託など資産管理の面では後見制度より対応力が高い可能性のある制度も出てきています。

しかし、どの制度を選ぶかはご本人やご家族が、何を最優先に考えるか、によります。

せめて一人でも多くの方に移行型任意後見契約の有効性を知って頂き、介護と共に発生するご家族への障害を少しでも予防することを考えるための一助として頂ければ幸いです。

介護資金に対する預金保険制度の活用

預金保険制度とは銀行預金の払出が出来なくなった場合等に預金者を保護し、資金決済の確保を図ることで、信用秩序の維持に資することを目的とする制度です。

皆様、元本1,000万円とその利息は保護されることはよくご存じの様で、銀行には1,000万円までしか預けない、と決めて取引行をどんどん増やされる方もいらっしゃいます。

しかし、取引銀行を増やせばその分管理の手間が増えて行きます。ここでは、

  第1講 預金保険制度の保護の範囲

  第2講 介護資金への活用

という形に講を分けて、預金保険制度の活用方法を考えてみたいと思います。

第1講 預金保険制度の保護の範囲

ここで保護される預金の範囲を確認します。

  ●全額保護される預金:決済性預金

  ●合算元本1,000万円とその利息まで保護される預金:一般預金

  ●保護対象外預金:外貨預金、譲渡性預金等

 決済性預金とは「無利息・要求払い・決済サービスを提供できる預金のことです。当座預金や利息の付かない普通預金が該当します。

 定期預金、利息の付く普通預金、通知預金等の一般預金は合算して元本1,000万円までとその利息は保護されますが、元本1,000万円を超える部分の払戻は破綻金融機関の財産の状況に応じる事となります。

 預金保険の対象外預金等は保護の対象外で、支払は専ら破綻金融機関の財産の状況に応じる事となります。

 一般の方は利息の付く普通預金と定期預金しかお持ちにならない事が多いので、1行当りの元本を普通預金と定期預金で合計1,000万円としない限り、預金全額の資産防衛が出来ません。

 しかし普通預金が無利息型であれば、決済用預金として、その普通預金は全額保護対象となります。普通預金を無利息型に替えることで、普通預金残高は全額保護される上、保護元本1,000万円は満額定期預金に充てることが出来ます。

第2講 介護資金への活用

 ご高齢となっても多くの金融機関口座をお持ちになって運用される方もいらっしゃると思いますが、お歳を召して身体がご不自由になっても若い時と同様に多くの銀行口座を管理するという事は中々骨の折れるものです。万一ご本人の意思確認が出来なくなった場合は、金融機関に払出制限をされてしまう可能性もあります。

 このような事態への対策に、事前に介護施設利用料等を自動振替にしておく方法が有効となります。ご本人の意思が確認できなくなると金融機関は払出制限を行いますが、ご本人の意思が確認できる間に締結した自動振替契約は、通常は払出制限の対象とされないからです。

 また、自動振替口座が無利息型の普通預金口座なら、預入先金融機関に万一の事があっても、その普通預金は全額保護の対象となります。

終講 まとめ

 ご高齢となり施設に入られたお父様お母様の施設利用料を、ご本人の普通預金口座から引き落として頂いている方も多い事と思います。引落口座を無利息型とすることで1,000万円の限度額を気にすることなく預け入れ出来ることは、介護費用等、預金管理方法の1つとしてご認識しておいて頂ければと思います。