相続財産の調査・負の相続財産

相続財産には正の相続財産と負の相続財産があります。

そして「正の相続財産ー負の相続財産=相続税の課税財産」となります。

少し専門的に言えば、「被相続人の債務で相続開始時に現に存するもののうち、その納税義務者の負担に属する部分の金額」が負の相続財産となりますが、相続財産調査に当たっては、先ず何が負の相続財産になりうるか、を知っておく必要があります。

大きく言えば「被相続人の負担に属するもの」で、「被相続人の債務で、相続開始時に現に存するもの」や「被相続人に係る葬式費用」が対象となります。

「被相続人の債務で、相続開始時に現に存するもの」には住宅ローンや、公租公課(固定資産税など)がありますし、「被相続人に係る葬式費用」には通夜費用、仮通夜費用、本葬式費用、納骨費用、お布施、戒名料の他、通夜葬儀会場設置費用、遺体運搬費用があります。

負の相続財産調査として、先ずは以上の費用に係る領収書を整えてください。正の相続財産調査には金融機関への依頼などが必要となりますが、負の相続財産調査は以上の領収書が手元にあるか否かが重要です。紛失などのないように管理することが必要です。

一方、初七日法会費用や四十九日法会費用、遺体解剖費用は対象となりません。

その他、墓地購入費用や墓地購入ローンも対象となりません。

一旦、全ての領収書を揃えて、負の相続財産となるか否かを分類して行くことが大切です。

被相続人の医療費と準確定申告

一般的に準確定申告は死亡者が自営業者だった、年間2千万円以上の給与所得があった、公的年金が年間400万円以上あった人などが対象となります。

この情報を知って、「私たちには関係ないもの」と考える方も多いと思います。しかし、準確定申告をする、しないに関わらず、被相続人にかかった医療費を見直してみることは必要かと思います。

年金の源泉徴収票をご覧になると分かりますが、一般的に年金は所得税等が控除されて支払われています。ご高齢でご病気などがある方は、医療費控除の確定申告をして源泉徴収された税金から還付を受けられる方もいらっしゃると思います。

準確定申告というのは毎年2月から3月にかけて行っている確定申告を被相続人の死亡後4か月以内に行う手続きなのです。つまり被相続人が支払った医療費のうち、亡くなった年の1月以降に被相続人が支払った医療費は準確定申告の医療費控除の対象になるのです。現代社会において、大抵の人は亡くなる時に病院でなくなります。亡くなるまでの医療費の内、被相続人名義で支払っている医療費は準確定申告における医療費控除の対象になるのです。

仮に配偶者が被相続人の医療費を支払っていたなら、その医療費は、被相続人の未払医療費を相続人である配偶者が支払ったものとして、相続税法上、配偶者の債務控除の対象になります。相続人である子が支払っていても同様です。

但し気を付けて頂きたいのは、被相続人が、子の扶養者になっている場合、つまり被相続人の生前、被相続人の医療費を子が医療費控除の対象として申告していた場合です。その場合、子が支払った被相続人の医療費は例年通り、子の確定申告において医療費控除の対象として申告する必要があります。

相続人でもない、全くの他人が、被相続人の医療費を支払っていた場合は、相続人に対して弁済を請求することになり、赤の他人の税法上の控除などは行われませんが、その様なケースは現代社会においてまず発生しないでしょう。

つまり、被相続人の医療費一つについても何らかの税務上の処理が発生する場合があるのです。相続に当たっては、銀行預金などの正の相続財産のみならず、負の相続財産(債務控除)についても考えておく必要があります。場合によっては準確定申告の対象となり、還付が受けられるものもありますから。なお準確定申告の還付金は、相続財産に当たりますのでそのあたりも気を付けて下さい。

危険な相続・片親と兄弟姉妹が相続人であるとき

片親が亡くなって、残されたのはもう一人の片親と自分の兄(弟)、というケースはよく見かけます。そして残った親が亡くなった後、仲が良かった兄(弟)との縁が切れた、というケースも耳にすることがあります。

これは兄弟がそれぞれ結婚している場合に見られがちです。片親が存命の間は、兄弟は親を軸にまとまります。残された親は兄弟にとって大切にしたい共通の人ですから。

相続財産についても、大方の兄弟は亡くなった父(母)の財産は取り残された母(父)に相続させることでまとまることが多いです。悪い事ではありません。

しかし、問題は残された片親が亡くなった時です。

両親が亡くなったあとは、それぞれの兄弟にとって一番大切な人は、自分の配偶者や子になります。家族が内の人であり、兄弟は外の人となります。大切にしたい共通の人がいなくなるとどうしても意見がまとまりにくくなり、結果遺産分割において仲違いしてしまうことがあります。

一旦お互いの主張を抑えて、親の財産(不動産など)を共有にする兄弟も多いですが、時間が経つと将来の取扱いについての意見が合わなくなって、結局売却して遺産分割せざるを得なくなり、最悪、遺産分割後は兄弟の縁が切れてしまうこともあります。

両親亡き後、兄弟で円満に取り扱うに当たっては、お互いに相当の努力が必要となることは、覚悟しておく必要があると思います。

こうした問題を回避するには、片親が存命中に、片親と兄弟が話し合って、両親亡き後の財産をどうするかも考えて、遺産分割を行うことが必要なのではないかと思います。具体的には片親が相続するのは現預金のみとして、他の不動産などは子に相続して貰う等の方法です。

相続財産の基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の人数です。仮に片親と子2名が相続人である場合は4,800万円が基礎控除額となります。

よく、配偶者に対する相続財産の軽減制度を利用してすれば、配偶者の相続する財産は1億6,000万円まで非課税となるのだから、残された片親の相続財産はなるべく多くした方が良い、と考える方も多い様ですが、それは問題の先送りです。

両親亡き後、子2名の非課税枠は4,200万円になります。仮に残された片親が全ての財産を相続し、その金額が1億円だったとします。そしてそのまま1億円の財産が残っていたとすれば、単なる納税の先送りです。仮に相続財産が4,000万円だったとしても、こんどは兄弟だけで遺産分割協議を行うわけですから、前述した仲違いに発展する可能性は十分あります。

むしろ片親が存命中に、将来兄弟がどうあって欲しいかも踏まえて、遺産分割について話し合った方が、そして出来れば片親が存命中に、親子了承の上で、現預金以外の財産を子に相続して貰った方が、遥かに争いが少ないのではないかと思います。

例えば、実家の土地建物の名義は子の一人としても、家屋に配偶者居住権登記を行えば、親の存命中は居住権が認められますし、子の相続する不動産の評価額も低く抑える事ができます。

その代わり、実家を相続しない子には、代償として実家を相続する子から幾らかの現預金を支払うとか、実家を相続する子が相続を契機に親と同居を始めるとか、考えられる方法は多くあります。むしろ残された片親の将来の生活と、両親亡き後の将来も考えた相続を、親の希望も聞きながら共に話し合うことの出来る絶好の機会なのです。

親もまだ元気なので、とりあえず残された片親に全て相続させる。この「とりあえず」という考えはなるべくしない方が宜しいのではないか、と思います。

相続発生時の手続きについて

相続発生時は、特定の期間までに行わなければならない事が多くタイミングを見計らって行う必要があります。以下では相続発生時から行うべきことを順に追ってゆきます。

1.相続発生後7日以内:死亡届の提出

提出先:死亡者の本籍地・死亡地、または届出人の所在地の市町村役場

提出者:死亡者の親族・同居人など(葬儀社の代行も可)

必要なもの:提出者の印鑑

立ち会った医師が作成する死亡診断書と、遺族が記入した死亡届を提出する。死亡届は時間外受付も可能だが、併せて提出する火葬許可申請書は時間外受付不可の自治体もある。

死亡届と火葬許可申請書を提出すると火葬許可証が公布されるので、火葬場に提出する。

火葬後に火葬済印が押された火葬許可申請書が返却されるが、これが埋葬許可書となる。

なお、死亡届と死亡診断書は後の手続きに必要となるため提出前にコピーを取っておくこと。

2.相続発生後10日以内:受給権者死亡届(報告書)の提出

提出先:手続きする人の住所地の年金事務所、街角の年金相談センター

提出者:遺族

必要なもの:死亡診断書のコピー、死亡者の年金証書、死亡者と提出者の住民票や戸籍謄本等

年金の受給権者死亡届は、国民年金は14日以内、厚生年金は10日以内に提出する。年金機構にマイナンバーを提出していない場合、死後も年金が支給され続けてしまう可能性があるため速やかに手続きを行う。併せて未支給年金・未支払給付金請求書も提出する。

受給資格は死亡日に消滅するが、支給は死亡月分まで行われる。2か月に一度の支払いの為、未払いとなるケースもあり、その場合遺族がその分を請求できる。

3.相続発生後、14日以内:健康保険・介護保険資格喪失届の提出

提出先:市町村役場

提出者:遺族

必要なもの:死亡者の健康保険証、介護保険証、提出者の印鑑

自治体によっては死亡届により手続きが行われる場合もあるが、そうでない場合は遺族が手続きを行う必要がある。健康保険組合や協会けんぽに加入していた場合は事業主が手続きを行う。死亡者を被保険者として被扶養者がいる場合は全員分の健康保険証を事業主に返還した上、被保険者は国民健康保険への加入または他の家族の被扶養者となるなどの手続きが必要となる。

4.相続発生後、14日程度:世帯主変更届の提出・公共料金などの名義変更

世帯主変更届は15歳以上の遺族が2名以上いる場合に住所地の市町村(戸籍課など)へ提出が必要。その他、電気・ガス・水道・NHK受信料・電話料金など生活関連の名義変更の必要有無を確認しておく必要がある。

但し、キャッシュカードの解約や、スマホの解約、SIMカードの解約は慎重に行う必要がある。

デジタルサービスのアカウントは現在一身専属性が強く、遺族と言えど相続等は出来ない。

データのバックアップやメール等は解約すると再生不可となる場合がある。

同様にパソコンやスマホの処分などは一通り相続手続きが落ち着いた後に行う方が無難。

5.相続開始後、3か月以内:遺言書の確認、相続人や相続財産の特定、相続放棄と限定承認

民法上、相続放棄や限定承認は相続開始後3か月以内とされている。遺言書の確認や相続人、相続財産の特定は3か月以内に行わなければならないという決まりはないが、それらが分からないと放棄して良いものかどうかも判断できない事と思う。

先ずは相続開始後2か月程度を目途に遺言書の有無を確認すると共に相続人の特定や相続財産調査等を行う事が必要。

遺言書は故人の本棚や机の引き出しなどを確認すること。なお自筆証書遺言の場合は発見しても決して開封してはいけません。家庭裁判所で「検認」という手続きを行わないと過料が課される場合があります。自筆証書遺言を発見したら先ずは家庭裁判所や行政書士等に相談して下さい。

相続人調査は基本的には被相続人が生まれてから死亡するまでの一連の戸籍謄本が必要であるが、令和6年から最寄りの市町村で全国の戸籍が請求可能となった。一部コンピュータ化されていない謄本は戸籍を有する市町村へ請求する必要があるが、行政書士等に取得を依頼する方法もある。

相続財産調査は預金通帳、保険証書、金融機関からの郵送物等を手掛かりに問い合わせを行う。なお、生命保険については証書などがなくても生命保険協会あて未請求の保険の有無を確認することも可能。また、毎年市町村から来る不動産に係る固定資産税請求書は土地建物の評価を行う上で重要な資料となるので確保しておく方が良い。

6.相続開始後、4か月以内:準確定申告

提出先:死亡者の住所地を管轄する税務署

提出者:相続人

必要なもの:死亡者の源泉徴収票(年金)、相続人全員の押印など

死亡者が自営業だった、年2千万円以上の給与所得があった、公的年金が年400万円以上あった人などが対象となります。なお、故人が給与所得者であった場合は年末調整で事業主が納付手続きを行うため、申告は不要です。

7.相続人発生後、10か月以内:相続税の申告

よく相続税の申告までに全ての相続手続きを終わらせなければならないと考えている方もいらっしゃる様ですが、必ずしもそうではありません。

相続財産額が、基礎控除額(=3,000万円+600万円×法定相続人の人数)以下であるなら申告は不要です。先ずは上記の5に記載した相続人や相続財産の特定をキチンと行う事が争いの少ない相続の第一歩であると考えて下さい。

不動産の分割協議でお困りの方へ・相続人申告登記制度の活用

 相続人申告登記制度が令和6年4月1日から施行されました。この制度は簡単に言うと、土地建物に相続が発生していること、および不動産について何か事が起こった時の連絡先を登記上明らかにしておくことを目的とした制度です。

 住宅を建てる時や新しく道路を通すためには、予め土地の所有者に了解を取っておくことが必要です。先の東日本大震災のときも、仮設住宅建設や新たに道路を通すとき等に同様の手続きが必要となりました。

 しかし予算が付いて仮設住宅の建設や新しい道路を開通させようと自治体が候補地の謄本を確認した所、所有者が随分昔に亡くなっていた事が判明しました。土地によっては現在の所有者が10名以上に上り、行方が分からない方も多くいることが判明したのです。これでは災害の復旧が迅速には進みません。

 そのため国は令和6年4月から、相続が発生して不動産を取得した相続人に、相続開始から3年以内に相続登記を行うことを義務付けました。令和6年4月以前に発生していた相続についても未登記なら、令和9年3月末までに相続登記の申請を行う必要があります。

 もし申請を行った場合は行政上の義務違反として10万円以下の過料の対象となります。

 しかし、相続で不動産を取得した方が皆さん3年以内に遺産分割協議が終了し、相続登記を申請できる訳ではありません。いろいろな事情で10年以上相続登記が出来ない場合もあります。

 この問題を回避するため新設されたのが「相続人申告登記制度」なのです。

 相続人申告登記制度とは遺産分割協議が終わっていなくとも、相続人の一人が①登記簿上の所有者に相続が発生したこと、②自分が相続人であること、を申し出れば、とりあえず申請義務を履行したものとみなしてもらえる制度です。

 申出を行うと、法務局が登記簿上に申出をした相続人の名前や住所を記載してくれますし、登録免許税もかかりません。

 ただし、売却などを行うときは、きちんと相続人を登記する必要があります。

 相続人同士が今後を話し合う中で、いつの間にか争いとなってしまうことがあります。

第一の原因は、相続人間の意見がまとまらないことです。先ずはお互いの頭を冷やして、円滑な相続を進めるためにも、「相続人申告登記制度」のご利用を考えて頂くことをお勧めします。

相続不動産の名義変更手続きの義務化・相続登記の申請義務化と相続人申告登記について

相続が発生したものの、分割協議が終わっていないので名義変更が出来ていない不動産をお持ちの方も多いと思います。

今までは名義を故人のままにして将来分割協議が成立した後に名義変更を行うことが通例となっていました。しかし、令和6年4月1日以降はそのような対応は出来なくまります。

「相続登記の申請義務」が施行されるからです。

1.相続登記の申請とは

「相続登記の申請義務」とは「相続や遺贈」により不動産を取得した相続人に対し、自己の為に相続の開始があったことを知り、かつ、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をすることを義務付けるものです。

正当な理由がないのにその申請を怠ったときは10万円以下の過料に処されます。

既に相続が発生している場合も、未登記であれば相続登記の申請義務が課されます。但しこの場合は施行日から3年、令和9年3月31日が履行期日となります。

2.正当な理由とは

正当な理由が認められる類型としては、①相続人が極めて多数に上る場合、②遺言の有効性等が争われる場合、③重病等である場合、④DV被害者等である場合、⑤経済的に困窮している場合、等が挙げられます。

これらに該当しない場合でも、登記官が個別事情を丁寧に確認して「正当な理由」があると判断した場合は認められます。

しかし、「相続登記の申請義務」が東日本震災時に、何世代にも渡って相続登記が行われていない土地等に対して現行法での対応が困難だったことを踏まえて施行されていることを考えれば、相続人が把握できるにも関わらず、兄弟姉妹が多いとか、名義人が先々代の名義のままになっているとかの理由で登記がなされていないことを、「正当な理由」として主張することは難しいものと考えられます。

3.申請義務違反があった場合

申請義務違反があったとしても、すぐに過料が課されるわけではありません。

登記官は申請義務違反を把握すると、先ず相続人に「義務の履行」を催告します。相続人が催告に応じて申請をすれば、過料は課されません。

しかし、催告が行われたにも関わらず「正当な理由」がなく申請をしなかった場合は、裁判所に「過料事件の通知」が行われます。この「過料事件の通知」が行われると、裁判所が過料を科する旨の裁判を行うこととなります。

万一、相続登記の申請を行っていなくても、催告時に申請を行えば過料に課されることはありません。

4.分割協議が完了していない場合

とは言うものの、相続開始後3年以内に分割協議が完了しないケースも少なくはありません。また過料に課されることを恐れて焦って分割協議を行ってもかえってまとまらないケースもありえます。

その場合の対策として「相続人申請登記」の手続きが新設されました。

これは、①登記簿上の所有者につき相続が発生したこと、②相続人の1人が自らがその相続人であること、を登記官に申し出ることで、申請義務を履行したものとみなす制度です。

「相続人申請登記」を受けた登記官は、所要の審査をした上で、申出をした相続人の氏名・住所等を職権で登記します。これは登記簿を見た人が、相続が発生していること、少なくとも相続人1名の氏名・住所を把握できるようにすることを目的とする制度です。云わば連絡先の表示登記と考えた方が良いでしょう。

添付資料は、申出をする相続人自身が、所有権の登記名義人(土地の持ち主)の相続人であることが分る戸籍謄本だけです。登録免許税も非課税です。

何より、複数の相続人がいても特定の相続人が単独で申出が出来、法定相続人の範囲や法定相続分の割合の確定が不要であることは、今後のことについて話し合いが出来ていない相続人にとって、極めて有効な制度と言えます。

もちろん不動産の売却などを行う場合には正式な相続登記を行う必要がありますが、逆に考えれば、「相続人申請登記」さえ行っておけば過料に課されることもなく、売却処分も出来ないということになります。

5.まとめ

現在、日本において所有者不明土地は約410万ヘクタール、九州本島を上回る面積に上ります。そしてその原因の62%が相続登記の未了によるものです。

所有者不明土地は災害発生後の復旧・復興作業にも大きな影響を及ぼします。次世代を担う方々に対する障害を残さないためにも「相続登記の申請」や「相続人申請登記」を積極的に活用することが望まれています。

相続が発生したときに本当に必要となる手続き

相続が発生したとき、多くの方は相続税のことを頭に浮かべる様ですが、相続税を考える前に率先して行うべきことがあります。主な手続きは以下の通りです。

手続き期日主な届出先
死亡届の提出7日以内  市町村
受給者死亡届の提出国民年金14日以内
厚生年金10日以内
年金事務所や
年金相談センター
健康保険・介護保険
資格喪失届の提出
14日以内市町村
世帯主変更届の提出14日以内市町村
公共料金等の名義変更14日前後各契約先
遺言書の確認
相続人・相続財産の確定
相続放棄・限定承認手続き
3か月以内法務局・自宅・公証人役場等
金融機関等
家庭裁判所(必要時)
準確定申告4か月以内税務署
相続税の申告・納付10か月以内税務署

第1のポイントは死亡届の提出、受給者死亡届の提出、資格喪失届の提出、世帯主変更です。

先ず死亡届の提出の提出がされませんと戸籍謄本に相続人の死亡事実が掲載されず、相続手続きは始められません。

死亡診断書で分かるだろうと考えられる方もおられます。これは死亡診断書で保険金の請求が出来ること、年金事務所や役所で死亡診断書の提出を求められることによる様ですが、死亡診断書で手続きを開始して貰えるのは保険会社と役所だけです。

銀行や証券会社、法務局は役所が死亡の事実を確認し、戸籍謄本に死亡日が掲載されない限り手続きに入りません。戸籍謄本に掲載されることで誰が法定相続人となるかが初めて確定するからです。つまり申出人が「法定相続人であること」=「正当な権利者であること」を確認できない限り、銀行や証券会社、法務局は動いてくれないのです。

第2のポイントは相続人と相続財産の確定です。死亡届が提出されれば2週間程度で死亡の事実が掲載された戸籍謄本が出来上ります。あとは相続人である事を証明できる戸籍謄本を取得すれば金融機関から残高証明書を取得する条件が整います。残高証明書が取得できませんと相続を放棄すべきか否か考えることが出来ません。その他、市町村や税務署に地方税や国税の滞納がないかどうかも調べておいた方が良いでしょう。

放棄を行う場合は相続開始から3か月以内に行う必要があり、1回申し出たら撤回することは出来ません。借入金がある場合等は十分に確認する必要があります。

第3のポイントは準確定申告です。これは死亡者の所得税の確定申告で、最低でも年金の源泉徴収票が必要になります。税務署相手ですから期日は厳守です。

以上3つのポイントのキーワードである「死亡届」、「残高証明」、「年金の源泉徴収票」は忘れずに手続きや確認をしておく必要があります。

これら3つのポイントをクリアしませんと、皆さんが心配される相続税について、場合によっては申告する必要があるか否かさえ確認することが出来ないのです。

なお、誤解されている方も多いですが、相続税の申告・納付には「遺産分割協議の作成」や「相続財産の名義変更」は必須条件ではありません。誰が相続するか決まっていないなら一旦法定相続分で相続する事として申告することが可能だからです。

将来、遺産分割協議が完成した時点で、申告をし直すことも可能です。

但し協議確定後4か月以内に行う必要があることは覚えておいてください。

生命保険金を渡すときの条件

銀行が生命保険を販売するようになって以来、窓口で資産運用の1つとして生命保険のセールスや生命保険金控除の紹介をされたことのある方は多いと思います。

「500万円×税法上の法定相続人の数」が非課税限度額として全ての相続人が受け取った生命保険金から控除されること、生命保険金は遺産分割協議の対象とならないので渡したい方に渡すことが出来る事は、よく知られています。

ただ、中には「他の相続人に知られることなく、渡したい方に渡すことが出来ます」等の謳い文句でセールスが行われる場合があります。

確かに生命保険金は遺産分割協議の対象外です。

しかし、他の相続人に知られることなく、となると一定の条件が必要となります。

確認すべき事項は2つです。

1つ目は相続税の基礎控除額です。

相続税の基礎控除額は「3000万円+600万円×税法上の法定相続人の数」で算出されます。

例えば相続人が、配偶者と子2名なら、3000万円+600万円×3名=4800万円が基礎控除額となります。

この場合、相続財産が4800万円以内なら相続税の申告は不要となります。申告不要なら遺産分割協議書が出来ればそれに従って相続財産が分割されます。遺産分割協議書の掲載対象とならない生命保険金は表に出てきません。

ここで気を付けるべきことは「税法上の法定相続人の数」です。

養子がいれば法定相続人の数に加算できますが、加算可能な養子の数は、①実子がいるか、実子がなく養子が1名の場合は1名、②実子がなく養子が2名以上である場合は2名となります。

相続人が配偶者と子2名で、養子が2名いた場合なら、上記①のケースに該当するので、税法上の法定相続人の数は5名ではなく、4名(配偶者、実子2名、養子1名)となります。

また、相続放棄があった場合もなかったものとして法定相続人の数を数えます。例えば相続人が配偶者と子1名、被相続人の両親はおらず、その代わり被相続人に兄弟姉妹8人がいる場合。仮に子が相続放棄をした場合、民法上、法定相続人は配偶者と兄弟姉妹の合計9名となります。しかし、税法上は放棄があってもなかったものとして考えますので、放棄前の数が採用され、法定相続人は2名となります。

2つ目は、生命保険金が「みなし相続財産」となることです。つまり本来の相続財産ではないものの、民法と違い相続税法上は相続財産とみなされて課税対象となるのです。

「500万円×税法上の法定相続人の数」が生命保険金の非課税限度額となることは既に示した通りです。つまり本来の相続財産とみなし相続財産の合計が基礎控除額+非課税限度額に満たない場合は申告不要となる可能性がありますが、限度額合計を超えると確定申告が必要となり、特に生命保険金は誰が幾ら受け取ったのか申告書に明記されますし、申告時には相続人全員の同意が必要となるのです。また、生命保険金の非課税限度額は相続人が受け取った保険金にしか適用されません。

ここで例として、相続人が配偶者と子2名の計3名、相続財産が4500万円の土地建物と相続人あての生命保険金1000万円の合計5500万円の場合を考えてみます。

相続税の基礎控除額は3000万円+3名×600万円=4800万円となります。

生命保険金非課税限度額は500万円×法定相続人の数3名=1500万円となります。

控除額合計は6300万円となり、各相続財産は基礎控除額、非課税限度額内に収まり、申告不要となります。

しかし、仮に生命保険金のうち500万円の受取人が法定相続人である子、残りの500万円の受取人が法定相続人でない方(例えば被相続人の母)だった場合は結果が違ってきます。

相続人である子への保険金は非課税限度額の対象ですが、相続人でない母への保険金は対象とされません。

そのため課税価額は土地建物4500万円+母への保険金500万円=5000万円>基礎控除額4800万円となり、相続税の申告が必要となり、遺産分割協議書には記載されないものの、相続税申告の段階で他の相続人に知られる可能性が出てきます。

以上のように、金融機関のセールストークの中には一定の要件が整っていなければ成立しないにも拘わらず、説明担当者の理解不足等により十分な説明のないまま案内されるものもあります。

ご自身の亡き後の事をご検討される場合は、セカンドオピニオンとして税理士やFP等をご利用頂き、確認や検証をしておくことをお勧めします。

生前贈与加算の改正と老後の暦年贈与活用

贈与税の暦年贈与非課税枠の利用を考えている方にとって2024年1月1日からの生前贈与加算改正は確認しておくべき事項です。

ここでは改めて贈与税の暦年贈与非課税枠を利用するときの考え方を見直してみます。

1.生前贈与加算の改正

従来、相続開始前3年間に発生した贈与は、相続が発生した場合は相続税額計算上、課税対象として扱われてきました。

贈与税は暦年贈与非課税枠を設け、受贈者当り年110万円以内の贈与は非課税とされていますが、相続開始前3年以内の贈与は相続税の対象とされてきた訳です。つまり、過去10年間毎年110万円の非課税贈与を行っていたとしても、相続が発生すれば相続開始前3年間の贈与は相続税の対象とされ、非課税で贈与できた金額は7年分の770万円という事になります。

今回の改正では生前贈与加算の対象が3年から7年に変更されます。

2024年1月1日に施行され、26年12月末までは3年間、27年12月末までは4年間、28年12月末までは5年間、29年12月末までは6年間、30年1月1日以降は7年間の生前贈与加算とすることで完成となります。

仮に23年1月から10年間、毎年110万円の非課税贈与を行って、33年に相続が発生した場合、7年分770万円が生前贈与加算され、非課税で贈与できた金額は330万円となってしまうわけです。

これでは今更、生前贈与を行っても意味がない、と考える方もいるかも知れません。しかし家庭の資金繰りから見ると別の有効性が見えてきます。

2.生前贈与の本当の有効性

ここに770万円の預金を持つ高齢者と一人息子がいます。仮に相続税の計算上、非課税枠は0とします。暦年贈与を行わないまま4年が経ち、高齢者が痴呆症になってしまいました。入院費は年100万円かかります。

痴呆症で意思疎通が出来なくなると、金融機関は預金を凍結します。親の口座から入院費は引き出せなくなります。3年後、高齢者は亡くなり、770万円の預金が残りますが、息子は3年分の入院費300万円を立て替えています。これは負の相続財産として認められます(※)ので相続税の計算をする際は770万円-300万円=470万円が課税対象となります。

(※)負の財産と認められるには息子が立替を行っていた事を証明できる領収書やメモ等の記録が残っていること、親の治療費を息子の医療費控除分として申告していないこと等の要件が必要となります。

今度は110万円の贈与税暦年贈与非課税枠を利用していた場合を考えてみます。年110万円の贈与を4年間行った後、高齢者が痴呆症に罹ります。以降は意思確認が出来ないため預金の払出は出来ません。しかし息子の手元には440万円があります。高齢者は3年後に亡くなり、330万円の預金が残っていますが、息子は300万円の入院費を立て替えてます。相続税の計算上、330万円+440万円-300万円=470万円が課税対象となります。

生前贈与してもしなくても470万円が課税対象となるわけで、違いはありません。

しかし、生前贈与をしていなかった場合、300万円は全て息子の手元資金から充てなければなりません。相続開始後に回収できるものの、当面自由にならない資金が300万円+親の預金770万円=1,070万円となるわけです。

一方、生前贈与を行っていた場合、入院費は生前贈与分440万円から充当できます。3年後高齢者が亡くなった時も手元には140万円残っています。自由にならない資金は高齢者の預金330万円だけだったわけです。

1,070万円と330万円の差は資金の効率的な活用を考えると小さなものではありません。

高齢者が入院した場合、「入院費をどうするか」が多くの家庭で問題となります。

大抵の方は、親がまだ介護が不要な時に「親が亡くなった時」の相続税の心配をされます。しかし、相続の前には「介護」があります。大抵の方はこの点に気付かず、親の介護に直面したときに大変な苦労をされるのです。

ご本人の意思表示が困難になった場合、ご本人の預金からの払出は出来なくなります。相続税を考える前に「介護のことも考えて贈与税の非課税枠を利用する」という事こそ、老後の暦年贈与非課税枠利用を考える上で必要な視点なのです。

そして、必ずFPや税理士等に相談してみる事をお勧めします。きっと力になって頂ける事と思います。

法定相続人 意外と知らない民法と相続税法の違い

相続税の非課税限度額は法定相続人の数が多いほど大きくなります。

ならば養子を増やせばその分法定相続人が増えて非課税限度額も多くなるから相続税を免れることが出来るのでは?このような理由から養子縁組を考える方もいらっしゃるようです。

相続税法上、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で算出されるのが相続税法上の非課税限度額です。法定相続人が配偶者と子2名の場合、3,000万円+600万円×3=4,800万円となります。

では、法定相続人が配偶者と子2名で相続財産が6,000万円の場合、養子を2名とったらどうなるでしょう?法定相続人の数は5名となります。非課税限度額は3,000万円+600万円×5=6,000万円となり、相続税はかからないのでしょうか?

相続税法上、法定相続人の数に加算される養子の数は次のように定められています。

・実子(自分の子)があるとき、又は実子がなく養子が1名のとき・・・1名

・実子がなく養子が2名以上であるとき            ・・・2名

つまり配偶者と子2名がいる場合、仮に養子を2名とったとしても、実子がある場合に該当し、税法上加算されるのは1名となり、法定相続人は4名、非課税限度額は5,400万円となります。

他方、養子にも民法上の法定相続分はありますので、法定相続分に従った遺産を請求される可能性があります。仮に遺言書で養子に残す遺産を0にしても、遺留分侵害額請求権(最低限の遺産を受ける権利)が行使されれば法定相続分×1/2の遺産を渡さなければならなくなる可能性もあります。

同じ「養子」や「法定相続人」という言葉を使っていても民法と相続税法では取扱いが異なる場合があります。万一、相続税の削減を目的に養子をとられることをお考えなら、ご注意頂くことをお勧めします。