生前贈与加算の改正と老後の暦年贈与活用

贈与税の暦年贈与非課税枠の利用を考えている方にとって2024年1月1日からの生前贈与加算改正は確認しておくべき事項です。

ここでは改めて贈与税の暦年贈与非課税枠を利用するときの考え方を見直してみます。

1.生前贈与加算の改正

従来、相続開始前3年間に発生した贈与は、相続が発生した場合は相続税額計算上、課税対象として扱われてきました。

贈与税は暦年贈与非課税枠を設け、受贈者当り年110万円以内の贈与は非課税とされていますが、相続開始前3年以内の贈与は相続税の対象とされてきた訳です。つまり、過去10年間毎年110万円の非課税贈与を行っていたとしても、相続が発生すれば相続開始前3年間の贈与は相続税の対象とされ、非課税で贈与できた金額は7年分の770万円という事になります。

今回の改正では生前贈与加算の対象が3年から7年に変更されます。

2024年1月1日に施行され、26年12月末までは3年間、27年12月末までは4年間、28年12月末までは5年間、29年12月末までは6年間、30年1月1日以降は7年間の生前贈与加算とすることで完成となります。

仮に23年1月から10年間、毎年110万円の非課税贈与を行って、33年に相続が発生した場合、7年分770万円が生前贈与加算され、非課税で贈与できた金額は330万円となってしまうわけです。

これでは今更、生前贈与を行っても意味がない、と考える方もいるかも知れません。しかし家庭の資金繰りから見ると別の有効性が見えてきます。

2.生前贈与の本当の有効性

ここに770万円の預金を持つ高齢者と一人息子がいます。仮に相続税の計算上、非課税枠は0とします。暦年贈与を行わないまま4年が経ち、高齢者が痴呆症になってしまいました。入院費は年100万円かかります。

痴呆症で意思疎通が出来なくなると、金融機関は預金を凍結します。親の口座から入院費は引き出せなくなります。3年後、高齢者は亡くなり、770万円の預金が残りますが、息子は3年分の入院費300万円を立て替えています。これは負の相続財産として認められます(※)ので相続税の計算をする際は770万円-300万円=470万円が課税対象となります。

(※)負の財産と認められるには息子が立替を行っていた事を証明できる領収書やメモ等の記録が残っていること、親の治療費を息子の医療費控除分として申告していないこと等の要件が必要となります。

今度は110万円の贈与税暦年贈与非課税枠を利用していた場合を考えてみます。年110万円の贈与を4年間行った後、高齢者が痴呆症に罹ります。以降は意思確認が出来ないため預金の払出は出来ません。しかし息子の手元には440万円があります。高齢者は3年後に亡くなり、330万円の預金が残っていますが、息子は300万円の入院費を立て替えてます。相続税の計算上、330万円+440万円-300万円=470万円が課税対象となります。

生前贈与してもしなくても470万円が課税対象となるわけで、違いはありません。

しかし、生前贈与をしていなかった場合、300万円は全て息子の手元資金から充てなければなりません。相続開始後に回収できるものの、当面自由にならない資金が300万円+親の預金770万円=1,070万円となるわけです。

一方、生前贈与を行っていた場合、入院費は生前贈与分440万円から充当できます。3年後高齢者が亡くなった時も手元には140万円残っています。自由にならない資金は高齢者の預金330万円だけだったわけです。

1,070万円と330万円の差は資金の効率的な活用を考えると小さなものではありません。

高齢者が入院した場合、「入院費をどうするか」が多くの家庭で問題となります。

大抵の方は、親がまだ介護が不要な時に「親が亡くなった時」の相続税の心配をされます。しかし、相続の前には「介護」があります。大抵の方はこの点に気付かず、親の介護に直面したときに大変な苦労をされるのです。

ご本人の意思表示が困難になった場合、ご本人の預金からの払出は出来なくなります。相続税を考える前に「介護のことも考えて贈与税の非課税枠を利用する」という事こそ、老後の暦年贈与非課税枠利用を考える上で必要な視点なのです。

そして、必ずFPや税理士等に相談してみる事をお勧めします。きっと力になって頂ける事と思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です